コラム

【DUO プロジェクト 2023】オーディション本選レポート(2023/03/07)

2023.08.03

今年度のデュオ・アーティストには水越さんと白瀬さんが選ばれ、11月の本番に向けて5月から研鑽を積んでもらっております。2023年3月に行われたデュオ・オーディション本選には5組の演奏家たちが参加し、素晴らしい演奏をしてくださいました。その様子をライティング・インターンとしてMusic Dialogueに参加してくださっている鈴木和音さんに、レポートしてもらいました。

室内楽を通じて「対話Dialogue」の機会を提供しているMusic Dialogue。なかでも興味深いのは昨年から始まったDUO プロジェクトだ。「対等」であることを求められるデュオ(二重奏)はその楽器編成故に、一人ずつの特性が顕著に露呈してしまう。シンプルなものほど難しいのである。昨年度のデュオ・アーティストであった對馬佳祐(ヴァイオリン)とジャンミッシェル・キム(ピアノ)も自身の特性と向き合い、深く悩みながらもその高い実力と吸収力で面白いほどの変化を見せてくれた。

そんな刺激に満ちたDUO プロジェクトが今年も始まる。3月7日におこなわれたオーディション本選には5組のデュオが出場。課題は「審査員が指定した40分前後のプログラムを演奏する」こと。選曲は自由ではあるものの、審査員が「ここを弾いて」と演奏時に楽章を指定する緊張感には観客席でさえひやっとするものを感じたが、さすがはファイナルに残るほどの実力者たち。すぐさま集中力を高め、デュオとしての強みや意志がよく伝わる演奏を会場に響かせていた。今回はそんなファイナリストたちにインタビューさせていただいた。


菊川穂乃佳(ヴァイオリン)、望月晶(ピアノ)
ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調
R.シュトラウス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品18

互いに相手の音が好きだと讃えあうデュオ。彼女らのプログラムは、「自分達のデュオの良さを出せることを一番念頭においたもの」だという。その演奏はまさに多彩で、燻した様な渋さや清流の様な透明さに魅了された。異なる音楽大学に所属する彼女たちは「お互い別の場所で別の経験を積んでいるからこそ、それぞれの引き出しがあり良い距離感を持って話し合いができる」と語る。「互いにないものを持っているからこそ1+1が2になる」という話が特に印象的だった。


森下真樹(ヴァイオリン)、橋本健太郎(ピアノ)
フォーレ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 イ長調 作品13
プロコフィエフ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 へ短調 作品80

互いへの信頼と哲学性を感じるこのデュオは、結成から長い年月を経ているのかと思いきや、このオーディションのためにデュオを組んだというから驚きだ。特に興味をひいたのはその演奏スタイル。「曲のキャラクターによってデュオとしてのアプローチが違う」と語るヴァイオリンの森下は、「親密な会話を意識した」というフォーレではピアニストに向き合うように、プロコフィエフでは「言いあって大きな物語を創っていく」ために音がクリアに際立つ位置で演奏。二人の掛け合いは室内楽だからこそ味わえる人間味に溢れていた。


廣田真理衣(ヴァイオリン)、岩谷優希(ピアノ)
ドビュッシー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト短調
プロコフィエフ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番 ニ長調 Op.94bis

双子なのではないかと思うほどに似通った雰囲気を纏う廣田と岩谷。「二年前にデュオを組み始めて以来いつも一緒にいる」と笑いあう姿が印象的だった。そんな彼女たちは「音楽の方向性も目標とする音源を一緒に聴きながら決めていく」のだという。一緒にいることで音質も感性も似てくるのだろうか。その演奏はまるでオーケストラのような一体感があり、双方の豊かな音がしなやかに寄り添う様子に、同じ音楽を一緒に創っていく気概を感じた。


前山杏(ヴィオラ)、原清夏(ピアノ)
ブラームス:ヴィオラとピアノのためのソナタ第2番 変ホ長調 作品120-2
ボーエン:ヴィオラとピアノのためのソナタ第2番 ハ長調 作品22

社会人として働く2人は、時間を見つけながらの挑戦。この日唯一のヴィオラとピアノのデュオだった。演奏もさることながら選曲も魅力的。なかなか珍しいイギリスの作曲家には審査員も「先に聞きたい」と希望を出すほどの盛り上がりをみせた。元ヴァイオリニストである前山は、「ヴァイオリンとの違いを意識してヴィオラの特性を活かせるようにすり合わせをした」と語る。ピアノの原もヴィオラ独特の発音には悩まされたと言うが、その演奏は奏者の人柄をも表すように丁寧で温かく、ヴァイオリンとは異なる内なる情熱が特段美しかった。


水越菜生(ヴァイオリン)、白瀬元(ピアノ)
フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 FWV 8
プロコフィエフ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 ヘ短調 作品80

最後は映画のように、その迫力で観客を音楽へと引き込むデュオだった。彼らの面白いところは肌で音楽を読み解いているところだろう。ピアノの白瀬は共演する演奏家毎に違う音楽が出来上がることを楽しみにしているようで「自分はカメレオンになりたい」と語る。対する水越も「(白瀬は)言わなくても合わせてくれる」と彼への信頼を話してくれた。水越の溢れんばかりのエネルギーを白瀬が全身で受け取り、その魅力を引き立てるように応える。なんとも一体感のある関係性だ。


二人で同じ方向を向いて深く音楽を創っていくようなデュオがあれば、互いの違いを魅力的に活かして風が抜けるように広く音楽を創っていくようなデュオもある。デュオとしての多様な在り方を前に、固定概念から解き放たれる思いで演奏に話にと聴き入ったせいか、時間的には長いはずのオーディションはあっという間に過ぎてしまった。ファイナリストたちも自身の演奏後には他のデュオの演奏に聴き入っていた様子。審査員からの講評、そして他のデュオからの刺激を受けて彼らはどのように変化していくのか、このオーディションだけと言わずにこの先も演奏を聴きに行きたいと切に思うデュオばかりだった。(文:鈴木和音)


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