コラム

【ディスカバリー・シリーズ9月公演に向けて】 矢野 玲子さんインタビュー

2023.09.08

9月のディスカバリーシリーズに出演されます MDアーティストの矢野 玲子さんから、お話を伺いました。ヨーロッパでのご活躍、楽しい日常が伝わるエピソードもたくさん伺えました。

 

ルクセンブルク・フィルハーモニック第一ヴァイオリングループディナー(バルセロナ)

|2001年から現在

——矢野さんが留学先にフランスを選んだ背景には、どんなお考えがありましたか?また海外生活を長く続けられている秘訣のようなものはあるのでしょうか?

矢野 ジャン=ジャック・カントロフ1について学ぼうと思ったからですね。彼は当時、パリ国立高等音楽院とロッテルダム音楽学校で教鞭を執っていました。ヨーロッパ最大の港があるロッテルダムに惹かれる人もいるでしょうが、私の場合その2カ所であればパリしかないと感じました。  
フランスに来たのが2001年1月末で、人生の半分以上がヨーロッパ暮らしです。もともとは長居する気もなかったのですが「好きなようにやってりゃいいんだよ」的な雰囲気を感じるフランスに慣れてしまって。師事したい先生がいたのでベルリンに行こうと思ったこともありましたが、タイミングが合わず仕舞いでしたね。

——大山平一郎監督とのご縁は10年以上になるとのことですが、矢野さんと大山氏との出会い、Music Dialogueと関わるに至った経緯を教えていただけますか?

矢野 大山先生とのご縁は15年前、シャネルのピグマリオン・デイズ関連の若手が参加する室内楽シリーズからです。Music Dialogueより前からですね。年齢こそジュニアというには無理があるくらいだったのですが、中身は隠しようのないジュニアでしたね。
今もジュニアなままな気がするというか、大山さんの前に出れば常にジュニア……その後も懲りずに定期的に起用していただき、最終的にMusiqueDialogueに一席頂いた流れです。

|ヴィオラ

——最近はヴィオラも弾くと伺いました。きっかけは何だったのでしょう?

矢野 最近はというか、ここ一ヶ月ですね。友人が関わる音楽祭に出ることになっていて、7月後半にプログラム分担について詳しい説明を受けたのですが……専属のヴィオラ奏者なしにヴァイオリン奏者3人で曲ごとに持ち回りでヴィオラを弾くのだと判明しまして。
未経験だったヴィオラをいきなりヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番やフランセの弦楽三重奏曲、モーツァルトのディヴェルティメントKV 593でも弾けと。「ヴィオラ初心者のわりにいきなり難しいのを……」とからかわれました。

——実際に弾いてみていかがでしたか?

矢野 楽器を貸してくれる人を探すところからのスタートでしたが、とにかく楽器が重くて疲れましたね。ハ音記号の楽譜を読むのももちろん大変でしたが、それより肩のスタミナが一番気になったのが正直なところです。
個人的に、いかにもヴァイオリン弾きが妙に低い音の楽器に持ち替えただけのようなヴィオラ演奏に違和感がありまして、自分もそう聴こえるんだろうなあと弾く前から自己嫌悪でしたが、実際やってみると案外楽しくてですね。正直ノリノリでした、途中からは「初心者なんだから仕方ない!」と開き直っちゃいましたからね。今は友人の楽器職人にヴィオラを注文しようかなと検討中です。

|一粒で二度も三度も美味しい

——今回のプログラムは、当団体では珍しくピアノ三重奏曲とピアノ四重奏曲という組み合わせですね。演奏する側から編成にどんな特徴を感じますか?

矢野 そうですねぇ……まず三重奏は、それが弦楽三重奏でもピアノ三重奏でも、やはり各パートの音が分厚いんです。ヴァイオリン2にヴィオラ1の三重奏でも同じですね。そのぶん各奏者の演奏技術も必要ですし、ソリストとしての技量が求められるところがありますね。
各パートに必ず「ここは私!」という見せ場があって、器楽奏者としては楽しいけれど音が多くて体力的に疲れる。いま触れた音楽祭でもモーツァルトは大変でした。会話のキャッチボールも楽しい、一粒で二度美味しいのが三重奏ですね。

——ピアノ四重奏はどうでしょう? ピアノ三重奏との、またヴァイオリンが二人になるピアノ五重奏やそれ以上の編成との違いなどもあるのでしょうか。

矢野 ピアノ四重奏は、そういった三重奏をもっと分厚くした編成のように感じます。ピアノ五重奏ならピアノ+弦楽四重奏の構図があって、既存の弦楽四重奏団に外からピアニストが加わる形の方がまとまりやすかったりもしますが、ピアノ四重奏は三重奏での“ソリストらしさ”を求められるところをさらに複雑にしたものと感じます。
でもピアノと弦のパートが複雑に入り組んでいて、そのやり取りも面白いポイントですね。これもまた一粒で二度美味しいです。でも考えてみたら、どの編成も一粒で二度も三度も美味しい気もしますね。

——日本とヨーロッパなど演奏活動で長距離移動も多々あるかと存じます。その中でご家族との連携で苦労することや、逆にご家族と楽しめることなどはありますか?

矢野 今は夏休みなので、自分が出演する音楽祭に家族連れで行きました。私は仕事三昧で全然休暇に付き合えなくて少し寂しかったけれど、家族は音楽祭の人達と仲良くなって、うちの子も沢山遊んでもらえて、結果的には子供にとっても良い経験になったようです。そこで会った人たちの話を今もよくしていますよ。「お兄ちゃん帰っちゃったね!会いたいね!」とか。出先で遊んでもらったり一緒に食事をしたりするのは、家族と楽しめることの一つです。  
秋から翌春にかけての演奏会シーズン中だと、私のパートナーはアーティストではなく普通の就業時間なので(私が在宅の日は残業もします)、連携は基本大丈夫です。演奏旅行中もパートナーと、ヨーロッパではベビーシッターが面倒を見てくれるので、特に困ったことは現段階ではありませんが、子供に長期間会えないのは寂しいですね。帰宅した時に大きくなっていて毎回ビックリします。あと私の職場のルクセンブルク・フィルハーモニーでは子供のための企画も定期的に行っているので、そこに連れていくと同僚たちの子供とも遊べたり、面白い音楽劇が観れたりで楽しいですよ。

室内楽コンサートの後に一枚(オーケストラの友の会主催のポスター)

——ディスカバリーシリーズの本公演が楽しみです。今回はブラームスとフォーレの、実演どちらも機会が決して多くはない作品ですが、聴きにお越しくださる方々へ向けてコメントを頂ければ幸いです。

矢野 どちらも実演機会少ないですね!フォーレのピアノ四重奏曲もブラームスのピアノ三重奏曲も、実演ではどちらも第1番を弾くことが圧倒的に多いですね。ブラームスの曲は全楽章弾くのは私は初めてです。  
フォーレのピアノ四重奏曲第2番は昔、初見で遊び弾きをしたことがありました。パリ近郊のとても豪華なヴィラのサロンを友達が取ってくれていて、そこで初対面のヴィオラの子と4人で集まって合わせてみました。なぜかヴィラの大家さんが色々ためになるコメントをして下さったんですが、帰り際に伺ったらその大家さんが指揮者のロベルト・ベンツィ2で!あの時の驚きは今でも思い出しますね、懐かしいです。  
大山さんとフォーレを一緒に弾くのは初めてですね。そしてブラームスでも優しさの籠ったこわ〜いコーチとして入られると言うことで、戦々恐々……いや楽しみにしています。練習しなければ!

(インタビュー:中野美里(MD Writing Intern Project)/構成・編集:白沢達生) 

       


矢野玲子 YANO Ryoko 【ヴァイオリン】
東京芸術大学を経て、フランス政府給費生としてパリ国立高等音楽院入学。ティボール・ヴァルガ国際コンクール優勝及び新曲特別賞受賞、メットローの協奏曲第3番を世界初演、50ヶ国で放映された。ジュネーヴ国際コンクール最高位、ヨーロッパ各地への演奏会に招待された。これまでに、ブランデンブルグ=フランクフルト国立管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、小泉和裕指揮・東京都交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、アルミンク指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団、小林研一郎指揮・日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートなどに出演。シャネル・ピグマリオン・デイズ2008アーティスト。Music Dialogueアーティスト。2017年にルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の第二ソリストに就任。


○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】9月12日(火) 19:00開始  (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,500円、学生 500円 (自由席)
【曲目】フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.)
【解説】笹沼樹(チェリスト)、小室敬幸(作曲、音楽ライター)


○本公演
【日時】9月15日(金)19:00開演  (18:30開場)
【会場】目黒パーシモン小ホール
【料金】一般 4,000円、学生 2,000円 (指定席)
【曲目】
 ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.101
 フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.) 



※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
※お客様のご都合による申し込み後のキャンセル及び返金はお受けできません。予めご了承ください。


  1. フランスのヴァイオリン奏者=指揮者、ピアニストのアレクサンドル・カントロフの父。1962年カール・フレッシュ国際コンクール優勝。1980年代以降数多くの協奏曲・室内楽作品の録音を日本のDENONはじめ世界のレーベルに残している。オーヴェルニュ室内管弦楽団の創設者でもあり、近年は協奏曲録音での若手との共演はじめ指揮活動も旺盛に行っている。 ↩︎
  2. 1937年マルセイユ生まれのイタリア系フランス人指揮者(仏語読みでは「ベンジ」に近い)。天才少年指揮者として早くから話題になり、ベルギー出身の巨匠アンドレ・クリュイタンスに師事。フランス近代音楽とイタリア・オペラに名演が多い。フランスではラムルー管弦楽団やボルドー=アキテーヌ国立管弦楽団との共演が有名な一方、10年近く首席指揮者を務めたヘルデルラント管弦楽団(アーネム・フィルハーモニー管弦楽団)をはじめオランダでの活躍もよく知られている。 ↩︎

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