2021年4月からライティング・インターンとしてMusic Dialogueに参加してくださっている山崎圭資さんに、9/4に開催されたDuo Project2022最終演奏会のイベントレポートを書いていただきました。DUOオーディションへの応募を考えていらっしゃる方にもぜひ読んでいただけたらと思います!
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室内楽において、さまざまな「対話Dialogue」を重視し、ベテラン演奏家が若手演奏家へ演奏技術や音楽創りを伝える機会を提供してきたMusic Dialogue。アンサンブルの最小編成である「二重奏Duo」に注目して、昨年新たにスタートした「DUO PROJECT」の第1弾となる演奏会が9月4日、Hakuju Hallで開催された。
芸術監督の大山平一郎(ヴィオラ)、竹澤恭子(ヴァイオリン)、上田晴子(ピアノ)という世界的に活躍する3人が昨年11月より、オーディションを通過した對馬佳祐(ヴァイオリン)とジャンミッシェル・キム(ピアノ)のデュオをコーチングしてきた。
今回の演奏会と公開リハーサルは、そうしたレッスンと対話の集大成であるだけでなく、竹澤と上田がそれぞれ若手の二人と共演することで、演奏家には刺激を与え、聴衆にはさまざまなデュオのあり方を垣間見せるものに。
前半2曲では、熟達した音楽家である上田・竹澤の見事な手腕に、若き演奏家が反応し、共鳴する。第1曲目となるシマノフスキ《神話~ヴァイオリンとピアノのための3つの詩曲》では、對馬とキムをパリ国立高等音楽院時代より指導してきた上田が對馬とデュオを組む。この作品の楽譜自体には明確に書かれていないものの、旋律や特定の音に意味をもたせ、浮き上がらせるよう演奏することで、ニンフが駆け回る様子や変身の過程、感情の揺らぎといった、ギリシャ神話の物語があざやかに描かれた。
2曲目の竹澤とキムのデュオによるブラームス《ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調》では、第1楽章から最終楽章に至るまで、表現力豊かで彫りの深い演奏が聴かれた。ヴィオラかと見紛うほどのヴァイオリンの骨太な低音やのびのびと広がる旋律線は聴衆を圧倒した。
DUO PROJECTの目玉となったのは、若手の二人によるプロコフィエフのソナタ。暗譜で臨んだ對馬とキムが十年来のタッグを感じさせる、攻めた演奏を披露。フレーズや音楽の性格付けからは、公開リハーサルなどでの指導だけでなく、それを踏まえた独自の解釈も聴かれ、本企画を通じた二人の進化が見られるものとなった。
全3曲の演奏後には、Music Dialogue恒例の「Dialogue」の時間が設けられ、聴衆から奏者陣に率直な感想や疑問が投げかけられた。對馬とキムは、ベテラン演奏家とかかわるなかで、室内楽のテクニックはもちろんのこと、新しいものを模索し、二人で変化していくきっかけを得たと語っていた。また、以前より二人とかかわりのある上田も、對馬との練習では楽器を弾いていた時間よりも議論していた時間のほうが長かったと語っており、レッスンとは異なる、共演するなかでの対話は刺激となったようである。
公開リハーサルについても、上田は「シマノフスキの音楽を、聴衆に自分の口から説明したことで、演奏もより具体的になった」と述べ、芸術監督の大山も「このように素晴らしい企画になるとは思ってもいなかった」と口にするなど、経験豊かな音楽家にとっても貴重な体験となったようだ。こうして第1弾が閉幕したDUO PROJECTだが、2023年3月にはすでに第2弾のオーディションが控えている。こちらもまた、演奏者にとってはさらに成長する機会ともなるだろうし、普段、演奏会や録音といった「成果」をその時々でしか聴くことのできない聴衆にとっても、音楽家の変化とその様子を実際に体感することができる稀有な企画となるだろう。
(文:山崎圭資)