8月からライティング・インターンとしてMusic Dialogueに参加してくださっている鈴木和音さんに、9/1に開催されたDuo Project公開リハーサルのイベントレポートを書いていただきました。濃密だったリハーサルの様子が鮮明に思い出されます!
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これぞまさに音楽の駅前留学。駅から徒歩1分の場所にある中目黒GTプラザホールにて、3日後に本公演を控えたDUO Projectの2回目の公開リハーサルが行われた。このプロジェクトは“Dialogue(対話)”をキーワードに、室内楽を通して世界に羽ばたく若手音楽家の育成に力を注ぐMusic Dialogue(略称MD)の新たなチャレンジであるとのこと。アンサンブルの最小単位であるDuo(二重奏)で室内楽の根幹を探求するという密度の濃そうなこの試みは期待通りに学びと刺激、そして“対話”に溢れたものだった。
この日取り上げられたのは、シマノフスキの《神話》とプロコフィエフの《ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番》第4楽章。デュオ・アーティスト2022に選ばれた對馬佳祐(ヴァイオリン)とジャンミッシェル・キム(ピアノ)はDUO Projectの初回を華々しく飾るに相応しい実力と吸収力を持っており、すでに最終調整段階。上田晴子(ピアノ)と大山平一郎(ヴィオラ/MD 芸術監督)がコーチを務める様子を、解説者を担った加藤文枝(チェロ)と小室敬幸(音楽ライター)がステージの背景に映された字幕を通して、通訳者のように奏者と客席を繋げた。
シマノフスキではコーチ兼ピアノを担当する上田が、この難解な曲を紐解いていく。題材となるギリシャ神話のストーリーを追いながら楽譜に描かれた繊細な描写を、まるで美術館の案内のように聴衆に解説してくれた。更に上田は事前のリハーサルで、對馬の清廉潔白な演奏に対し「〔リズムを〕合わせるのではなく“色”にすっと入っていくように」と助言したエピソードを披露。以前の演奏を再現して、聴衆にも分かりやすくどのように変化したのかを聴かせてくれた。
面白いほどの違いはやはり音色。先ほどの一言だけで、第1曲の冒頭に現れるアレトゥーサのメロディーは、冬の凛とした空気を思わせる気高さが、肌に溶け込む霧雨のごとき哀愁と妖艶さを纏うかのようになるのだから、思わず口が綻んでしまった。なるほど二人で同じ世界観を創り上げるとはこう言うことかと肌で納得させられた。本公演では自分も奏者と同じ景色を楽しめるのではと、今回の公開リハーサルを通してコンサートへの期待を更に高めた観客も多かったのではないだろうか。
それに対し、プロコフィエフでは作曲者の人間性が話題に。揺れ動く社会に翻弄された彼は心温かい人だったのか、本当は冷たい人だったのか……。大山から「美しい表現がすべてではない」と指摘されたキムと對馬は、ピエロのようにコロコロと情緒が移り変わる音楽の着地点を模索し続けていく。字幕によって「自分の考えている設計図を音にするような作業」と解説されると、その様子を見守っていた客席は一気に応援ムードに。最後にはメロディーの動きに合わせて体を揺れ動かす観客も多く見られた。
大山は最後に、演奏家は“再現芸術家”であるが、時には演奏家個人の“アクの強さ”も必要だと説いていたのが印象的だった。DUO Projectを通して得た教えを、對馬とキムはどの様に自身の血肉に変えていくのか。本公演のその先までも楽しみになる公開リハーサルだった。
(文:鈴木和音)