コラム

【室内楽塾 in 東京2024】受講生向けオンライン講座を実施しました。

2024.02.18

2月12日に、室内楽塾in東京2024に参加される9名の受講生の皆さんに向けて、音楽ライター・翻訳家の白沢逹生さんによるオンライン講座が開かれました。一同が顔を合わせるのはこの日が初めて。まずは受講生の自己紹介セッションから開始し、今回の室内楽塾に参加した理由や意気込みなどを話します。その後、本題の講座へと続いていくわけですが、西洋美術史がご専門である白沢さんならではの視点から、今回は「時代、環境、人―作品の本質を形作る「音楽」以外のことー」というテーマで、西洋美術史・文化受容史を音楽と絡め、大変興味深い講義を展開してくださいました。

「画家は色鉛筆をどのように眺め、扱うか」という、演奏家にはなかなかない視点から講義は始まります。
『平面的な絵を立体的に表現するために、画家は、色鉛筆の先端(=点)というよりも、一つの色をまとった色鉛筆を見て、色を選ぶ。色鉛筆を点ではなく立体で眺めながら、その色の色分けなども考えることが背景を学ぶということ。それを音楽に置き換えると、

『音楽を伝える手段として、ヨーロッパの人は楽譜を書く方法を確立させたが、その楽譜と向き合い、音を出すだけでは、色鉛筆の先端の点を見ていることと同じで、全体像として私たちには伝わってこない。楽譜は手紙のようなものであり、自分たちとは異なる言語、生活様式、文化を持つ人達が、その当時にどのような出来事があって、それをリアルに感じてその作品が生まれたのか、ということまで考え巡らせ、解像度を上げることによって点と点がつながって線になり、全体像を捉えることができる。』このような視点を軸に、時には同じ時代に書かれた美術作品を例にその作風の違いなどを見ながら、当時の時代背景を深掘りしていきます。

ブラームスについての話も、音楽的な内容にとどまらず、彼が生きた時代とはどのような時代だったのか(ドイツという国がどういう立場で、他国との関わりや戦争、社会の変化が市民にどのような影響をもたらしたのか)、という当時の風景がまるで目に浮かぶような語り口で社会的背景をわかりやすく解説してくださいました。

そのうえで、クラシック音楽が時代と共にどのように変化してきたのか、ブラームスの作品を理解するためにはどのような視点から学んでいくことが大切なのか、楽譜をどのように見ることが重要なのか、など、角度を変えて本当にあらゆる視点からお話しくださり、あっという間に1時間以上が経っていました。私たちもまだまだ聞き足りないほど(おそらく白沢さんも話し足りなかったことでしょう)充実した内容で、非常に有意義な時間を過ごすことができました。

レクチャーの中でも印象的だったのは、『現代に生きる私たちとは全く違う環境で生まれた音楽を、当時のあり方を紐解きながらそれを客席に伝えるのは、過去の分析や検証が目的なのではない。適切に読み解いた音楽をどう未来に意味あるものにしてゆくか?を考えることが大事で、あくまで未来のためにやっていることなのだ』という話です。目の前の楽譜という作曲家からの手紙を通して演奏される音楽には、テクニックや音楽性とは別の、様々な社会的背景があって、その点と点が結びつくことによって立体的な音楽として成り立つのだ、ということを、色々な例を通じて繰り返し伝えてくださいました。楽譜の中に込められた、作曲家が伝えたかったことを汲み取り、知識を深めたうえで、演奏することが大切なのだということを改めて知ることのできた、大変興味深い講義でした。

受講生も、「音楽を感覚的に捉えるだけでなく、知識や時代背景と結び付けていくことでより楽しめるのだと感じた。演奏するうえでのヒントは曲から離れたところにあると思っていたが、今日の講義はまさに、新しい視点で学ぶことができ、今後に生かすことができそうだ」など様々な感想を語り、また芸術監督で塾長の大山平一郎から「作品、作曲家を通してその時代の空気を感じられるような再現芸術家に皆さんが成長したら、本当に素晴らしい人生があるんじゃないかなと思います」と今回の時間を総括しました。

知的好奇心を刺激するこの講義を通じて得た知識、事前学習の成果は間違いなく糧となり、音楽にも表現されることでしょう。どうぞご期待ください。


Music Dialogue 室内楽塾 とは・・・

若手演奏家が自ら応募して室内楽を学びに来る場です。京都と東京でそれぞれ年1回開催しています。
演奏家としての土台となる音楽づくりの考え方や楽譜の読み方、アンサンブルの基礎から演奏テクニックまで、ベテランと共演しながら学びます。
今回の東京塾は、高校生、演奏活動をしている方、海外の方と、多様な受講生9名が、ブラームスの3曲に取り組みます。


室内楽塾 in 東京 2024
公開リハーサル  2月23日(金)/24日(土)/25日(日) 10:00~19:00 @旧園田高弘邸
ファイナルコンサート 2月26日(月) 19:00開演  @中目黒GTプラザホール
演奏曲目/出演者 
ブラームス ピアノ五重奏曲 へ短調 作品34
堀内龍星(ピアノ)、水野泰志(ヴァイオリン)、蓮見杏梨(ヴァイオリン)、大山平一郎(ヴィオラ)、岡田紗季(チェロ)
ブラームス 弦楽五重奏曲 第2番 ト長調 作品111
菊川穂乃佳(ヴァイオリン)、城野聖良(ヴァイオリン)、菊田萌子(ヴィオラ)、大山平一郎(ヴィオラ)、加藤文枝(チェロ)
ブラームス ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 作品25
古海行子(ピアノ)、Choi Jung Min(ヴァイオリン)、大山平一郎(ヴィオラ)、加藤文枝(チェロ)


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