アンサンブルの最小単位であるDuo(二重奏)を探求するべく、2021年から始まった“DUO PROJECT”の第2シーズン集大成となるコンサートが 11月10日、Hakuju Hallで開催された。
昨年に引き続き、芸術監督の大山平一郎(ヴィオラ)、竹澤恭子(ヴァイオリン)、上田晴子(ピアノ)という世界的に活躍する3人が、2023年3月7日に行われたオーディションで選ばれた水越菜生(ヴァイオリン)、白瀬元(ピアノ)をコーチングしてきた。
今回の演奏会は、若い世代へ音楽をつくり上げることを熱心に伝えるベテラン勢と、その教 えを果敢に受け取り、そして自ら考えて吸収する若い演奏家とが音楽・言葉で対話し、観客と共有する時間になった。
演奏に入る前、大山がプログラム冊子の記載の意図を語った。一般的にヴァイオリンソナタと聞くと、ヴァイオリンが主役でピアノは伴奏というイメージを持つ。しかし今回の三曲の楽譜には「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」と記されている。そのため、プログラムにはピアニストを先に記載したとのこと。多くの人が二重奏ソナタに持っている先入観をほどき、2人の奏者の対等な関係の探求をプログラムからも読み取ることができるようになっていた。
昨年に引き続き前半2曲は、ベテランと若手演奏家の共演。1曲目、ラヴェルの《ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト⻑調》は、上田・水越のデュオで。この作品を何度も演奏しているという上田が全知全能の神のように、1音弾くごとに音楽の流れを変えてみせ、水越もそれに呼応するように楽章ごとに繊細さ、大胆さ、速弾きによる超絶技巧を披露した。
2曲目は白瀬・竹澤のデュオによるブラームス《ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番》。冒頭、白瀬の骨太なピアノに少々驚くが、竹澤の会場全体を震わせる伸びやかなヴァイオリンと合わさった時、これがこの2人のデュオのあり方なのだと納得する演奏だった。演奏後の竹澤は、白瀬に愛を届けるつもりで演奏し、白瀬からも愛が返ってきたと演奏を振り返った。まさに、この2人ならではの情熱と華を感じる演奏だった。
メインは、若手2人によるサン=サーンスの第1ソナタ。第1楽章のユニゾンのフレージングやダイナミクスの変化、全楽章にわたりテクニックや緩急も見事であった。今後の2人の活躍が頭に浮かぶような、半年のプログラムの成果が存分に表れたものだった。
演奏会後には恒例のダイアログの時間が設けられ、聴衆からの疑問や感想を演奏者と共有した。最大の成⻑や困難は何だったかという質問に、白瀬は「分かっているのに体が硬く思うように動かせなかったことが、流せるようになった」と。また、水越は初回のコーチングで大山に言われた「料理をする時、何を作るのか決めずに買い出しに行くのか」という言葉が印象的で、音を出す際どのような音をどの奏法でと考えを深めることを学んだと語っていた。
コーチ陣は人に教えるということについて語り合う。大山は若手たちが先入観を捨てて新しい教えを受け入れてくれたことを嬉しく思いながら演奏を聴いたという。竹澤は今回のプロジェクトの経験を「逐一思い出して」これからの音楽家人生を過ごしてほしいと語った。また上田も、若手たちの新しいドアを開いてあげたい、そして今回は上手く開けられたと話し、若手・ベテラン共に良い影響を与え合い温かい空気感に満ちた空間だった。
DUO PROJECT第2シーズンが閉幕し、2024年はいよいよMusic Dialogue10周年に入る。大山は来年度がかなり壮大な年になるだろうと語る。音楽を作るプロセスを聴衆にも体験してもらい、若手演奏家が育つ環境を提供するこの団体の一つの区切りとなり、そして今後の10年につながる10周年の企画を楽しみに待ちたい。
山下実紗(音楽ライター/MDライティングインターンプロジェクト卒業生)