まずは”挑戦”。そこから、音楽の本質が見えてくる。
――石上真由子×大山平一郎が語る、室内楽塾――

2026年1月に開催される室内楽塾in京都にて講師を務めるのは、塾長・大山平一郎(芸術監督/ヴィオラ)に加え、ソロ・室内楽等あらゆるジャンルで活躍目覚ましいヴァイオリニスト・石上真由子さん。MDアーティストとしていつも大山氏と息ぴったりのアンサンブルを届けてくださっている石上さんですが、過去には受講生として塾に参加していたことも。その頃から今を振り返りながら今回の塾に向けて思うことを大山氏との対談で語っていただきました。ぜひ最後までご覧ください!
深まってきた音楽の“共通認識”
真由子さんはMusic Dialogueの室内楽塾では今回初めて講師されるということですが、最近は様々な音楽祭や企画で室内楽を教える立場になることが増えてきていらっしゃいますよね。8月には福島県の郡山でひと足先に大山先生と室内楽の講習をされていましたが、感触はいかがでしょうか?
石上:自分なりに色々と考えてはいるものの、やはり「大山さんはどう読み取っているのか」というのはどうしても気になってしまいますね。(笑)とはいえブラームスは室内楽で何回も一緒に弾いているので、一小節ごとに「あ、こんなこと言われたな」と思い出すほど染み付いているんです。それをベースにして、自分の感性も加えることができました。
メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲は初めて弾いたんですけど、大山さんにヴァイオリン・コンチェルト(協奏曲)のレッスンを受けたことがあって。その時に教わったことがすごく活きましたね。大山さんが実際におっしゃったことを聞いていると、今回この曲をやるにあたって自分の過去のレッスンや室内楽の共演を通して考えていたことが、意外と道筋逸れてなかったなという実感も得られて、ちょっと自信がついたというか。自分が考えている方向性は間違ってなかったかなっていう風に思えたし、それが1月に向けての安心材料になりました。
大山:僕もあれやこれや、いろんな様式の楽曲をたくさん勉強させてもらったけども、やっぱりその根底にある基本的なことは時代が変われど作曲家たちは受け継いできているんだよね。演奏家もそこを辿れば、どんな曲を演奏するにしてもそんなに大きく道から外れるはずはないと僕は思っているんだけども。
石上:でも私自身、大山さんと出会うまでちゃんとブラームスを勉強したことがなかったんです! 2018年にMusic Dialogueの東京塾で大山さんとゼクステット(弦楽六重奏曲)の1番を初めてやってそこからブラームスをたくさん弾くようになったんですが、それまではヴァイオリン・コンチェルトしか弾いたことがありませんでした。だけど、もう今では、大山さん大体リハーサルでこれ言うだろうなって分かる(笑)。
(一同笑)
石上:もう、絶対ここで一回止まって、ここでこれ言うだろうなって分かるんです。
大山:やっぱりね、経験を重ねて楽譜の見方が一定してくると、「方程式」があるっていうのがわかるからね。もう必然的に次はこうなるっていうのが。


室内楽を“教える”ということ
そこまでもう全部お互いにわかり合っているものを、それをまだ知らない人たちに伝える時に気をつけていることや難しいなと感じることはありますか?
石上:このあいだ郡山でやった時は私がまず言ってみて、それが伝わらなかったら大山さんが違うアプローチで攻めてくださったんです。人によってわかりやすいアプローチの仕方って違いがすごくあって、どの方向からでも言えるようにするって大事なんだなっていうのはすごく感じました。例えば、ぼんやりとした音楽的なところから話してみて、それで伝わらなかったら例えばテクニック的な、もっと具体的な話をしたりとか、いろんな方向から攻めてみたり。


大山先生は長い間“教える”ということをされてきて、今でも気をつけていることはありますか?
大山:僕の場合は34歳から人の前で指揮をするっていうことを始めたんだけど、指揮者は自分で音を出せないわけじゃない。でも自分が思っていることを実際に音として人に出してもらうためにはどういう風に言わなくちゃいけないのか? それまでとは異なる新しいアプローチをしなければならなくなったんだけども、たまたま僕はロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団に属していたから、指揮者がグループをどういう風に指導するかっていう、いろんな例えを自分の目の前で見ることができたのは役立ったね。
やっぱり良い指揮者は言っていることに対して一貫性がある。つまり、ぶれない。言われた側が後で振り返ってくれた時に「ああ、あの人やっぱり一貫性のあること言っているんだな」っていう印象を持たせるっていうことが大事で、それをいかに言葉少なく的確に言うか。だから向こうでは、指揮者は3ワード以上話すなっていう鉄則があるのね。
3ワードというのはたとえば「Too laud (大きすぎる)」とか?
大山:そうそうそう。やっぱり急所をきちっと、「本当はこうあるべき」→「でも今はこうなっている」→「だからこうして欲しい」とか、三段論法のように指摘する正確さ。これが必要だと思う。そういう心がけっていうのは楽器をただ弾いているだけだと――特にソロを目指している人には――あんまり求められない資質だよね。だからまあ、僕の場合はそうやってたまたまオーケストラに入っていたから得られた副産物だと思う。
石上:あと大山さんの室内楽のリハーサルを見ていて毎回すごいなと思うのが、もう大山さんには確実にこうだっていう最終的なイメージがあるのに、それを具体的に言ってしまわず、必ずその伝える相手に一回考える工程が入るような問いかけをするんですよ。例えば、「こういう風にフレーズ感を持って弾いて欲しい」っていう時でも、「計画的に考えてみて」と言うとか。
大山:そう、戦略!
石上:どういう風に(演奏を)プランしようかっていうのをちゃんと奏者に考えさせるから、結果的に考える力をつけることになるというか。だから取り上げている題材がブラームスのゼクステットだったとして、それがブラームスの別の作品をやる時にも、「あ、ここ同じことだな」ってその人が応用できる。この曲でしか通用しないことではなく、広くいろんな曲に共通していく考え方とか、行間の読み方。こういう実力が鍛えられる感じがしていて。実際自分もそうやっていろんな曲でちゃんと組み立てて考えられるようになってきたような気がしています。うまく育てられたなと(笑)。

受講生に向けて
――塾はフレッシュな気持ちで音楽に向き合える場所
すごい……そういうプロセスがあったからこそ今ではどんな曲をやる時もお二人は息ぴったりなのだなと感じました。ではこの室内楽塾を受ける受講生に向けて、どんな心構えで、どんなことを学びに来てほしいですか?
大山:塾だけに限らずMusic Dialogueの他の企画でもそうなんだけど、やっぱり若いうちは失敗を恐れながら弾くっていうのはもう最悪だと思うわけ。失敗したからこそ、何がいけなかったっていうのが本当にわかるわけだから。だから我々としては、良い環境を作って、その中では失敗してもいいよっていうような場を与えていると思うのね。
直前のゲネプロでは全く失敗許されないぐらいのピリピリ感結構ありますけど、それはいいんですか?(笑)
(一同笑)
大山:でもいくらお客さんに良い演奏だったと言ってもらっても、演奏家たちはどこがうまくいかなかったのかとか、そういうのはもう一生忘れないんだよね。それが良い具合に積み重なって、どんどん良くなっていくわけだから。だから塾に来る意味としては・・・まあ、演奏するだけだったら別に塾に来る必要ないわけだけど、修行したいと思うんだったらぜひ来てほしいと思う。
真由子さんはいかがですか?
石上:私自身、大山さんと出会うまで古典派とかロマン派の代表的な作曲家、特にモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスをちゃんと勉強したことが本当になかったんです。もちろん室内楽の弾き方も教わったけど、作曲家ごとの語法とか暗黙のルールとか、そういう音楽的な作曲家ごとの考え方や楽譜の読み方を教わったのが自分としては一番大きかったと思います。なので、受講生の皆さんもそれぞれ勉強しているとは思うんですけど、もう一度改めて、作曲家ごとのどういう風に行間を読むのかとか、どうやって音楽を構築していくのかっていうことをすごくフレッシュに学べる場じゃないかなと思うので、ぜひ楽しみに来てほしいですね。
失敗しても良い場、だからこそまずは自分でイメージを持って
大山:あとやっぱり僕が切に願っていることは、たとえ結果的にそれが間違っていたとしても、やっぱり自分なりのイメージを作って塾の場に来てほしい。その音を正確に弾くっていうのがまず一番の目的みたいになりがちだけれども、その前に「何を作りたいか」「何を表現したいか」っていうイメージがその人にないと(音楽は)絶対作れないと思うから。それが実際にできるかできないかは技術的なことだから、それはこれからまた学べばいいわけで。ただ塾に行って、先生から言われたことをその通りにやればいい、っていう態度はもうすぐにバレちゃう。
石上:私自身、振り返ってみると色々考えて、考えて、実は全く違う方向に進んでいたところから、大山さんに「いや、それはこうじゃない?」って言われて「確かに」って考え直す……そういう方向転換があったからこそ、いま自分の中で積み重なってきたものがあると思っています。やっぱり失敗ありきなんですよね。自分がまず挑戦して、失敗して、そこから学びっていう形になる。まずは自分でもがくところから始まって、その過程で塾があって、それが終わった後もさらに成長していけるような学びを与えてくれる場だと思います。必ず財産になるはずなので、それなりの期待を持って来てもらえたらいいなと思っています。
お客さまに向けて、そして講師としての意気込み
お客さまに向けても、やはりこの塾ならではの空気感があると思うので、普段のディスカバリー・シリーズなどとは違った魅力をお伝えできたらと思っています。
石上:普段のMusic Dialogueの公開リハーサルも本当にゼロから作っているのでそこでの伸び率は確かにあるんですけど、とはいえみんな大山さんの息がかかっているメンバーなので、共通言語がそもそもあるじゃないですか。大山さんがドルチェって言ったらすぐ、「あ、はい」みたいな(笑)。でも塾の場合はそれを全く知らない人たちも来るので、もっと劇的な、ドラスティックな変化があるはず。その変貌ぶりを楽しめるんじゃないかなと思っています。
最後に、塾に向けてお二人の抱負をお願いします!
石上:すごく難しいんですけど、いかに言葉数少なく端的に、その上、受講生に考えてもらえる過程を持ちつつ伝えられるかを頑張りたいと思います。最悪の場合私が「こうやって弾いて」って見せたら、きっとみんなすぐにそう弾けるんだけど、絶対それはやりたくない。具体例として自分の音を使うことなく、言葉でちゃんと説得力を持って伝えられることを目指したいですね。
大山:もう既に異次元の素晴らしい才能と技量と意識を持った真由子さんを、いかにさらに素晴らしい指導者に育て上げるかが僕の使命です。
そうすれば大山先生が1日に9時間も弾かなくて済みますよね(笑)。
大山:そうそう、そうそう。いやあもう、素晴らしい若い人たちからエネルギーをもらっているので、そこに参加できるだけで僕は幸せですよ。
石上:大山さんが一番若々しいです(笑)。
(一同笑)

■ 聞き手・執筆:岡田 紗季(チェロ/室内楽塾2023-25修了生)
■ 編集 :小室 敬幸(音楽ライター)





