コラム

【ディスカバリー・シリーズ9月公演に向けて】 芸術監督 大山平一郎よりメッセージ

2023.09.10

ディスカバリー・シリーズ9月公演に向けて、芸術監督 大山平一郎からのメッセージです。

何の分野にでも「通(つう)好み」という表現があります。
今回のディスカバリーシリーズで取り上げる演目は「難しい」という意味ではありませんが、どちらかというと室内楽の「通好みの組み合わせ」と言えるかもしれません。

どちらもとても特別な曲なので、よく知らずに聴いても新鮮な気持ちになっていただけると思いますが、知れば知るほど奥が深い曲でもあります。

ブラームスのピアノ三重奏曲第3番、フォーレのピアノ四重奏曲第2番は、共になかなか実演されない演目です。
それはなぜか?
概していえば、演奏する人も「通」でなければいけないからかもしれません。

ポール・セザンヌ(1839~1906)
『大きな松とサント=ヴィクトワール山』(1887)
ロンドン大学コートルード美術研究所所蔵
※セザンヌは両作曲家の間くらいの世代。この絵はまさに今回演奏される2作品と同時期の作。

話は少し逸れますが、以前私は、ある人から「印象主義の画家セザンヌがキュビスムの草分けだったと想像できるか」と聞かれました。
彼の作品は一見どちらかといえば伝統的な、自然にしか見えない普通の絵でも、「通」が見ると、そこにキュビスムにつながるとんでもない考えが潜んでいることがわかるのです。キュビスムの創始者とされるピカソとブラックはさすがです。セザンヌの絵の奥に潜んでいたものが何であるかをちゃんと理解して、自分の作品の糧にしていました。キュビスムの「演奏者」にあたるピカソとブラックは、「通」の中の「通」だったと言えましょう。

ジョルジュ・ブラック(1882~1963)
『水差しとヴァイオリン』(1909~10)
バーゼル市立美術館所蔵
※ブラックはウェーベルンやバルトークと同世代。この絵はシェーンベルクの弦楽四重奏曲第2番やマーラーの交響曲第9番、ベルクのピアノ・ソナタなどと同時期の作。

私にとってブラームスのピアノ三重奏曲第3番は、彼が後輩たちに、これからの音楽の型や考え方について、時折記譜上の冗談を交えながら何かを教示すべく残したのではないか、と思える曲です。

「室内楽」という分野は、作曲家が最小限の編成で最大限の音楽表現を試みる、音楽合奏の根本を追求する世界です。
フォーレのピアノ四重奏第2番は、我々演奏者の多くが最高峰の室内楽作品の一つと認識しているものです。言葉では表せない不思議な体感をもたらすのですが、弾き込めば弾き込むほど、更に奥があると思わせる、深いものを感じるのです。

今回の2曲はお客様をいつもとは違う感覚にお誘いできるのではないかと思います。
「なんかこれは自分が知っているブラームスじゃない」とか、「このフォーレははっきり輪郭が見えてこない」など……。聴き始めてしばらくは数々の危惧を持たれるかもしれません。それを演奏後には「こんなブラームスがあったんだ」「フォーレはこんな色彩感を表現しようとしたのかな」などとお客様に思っていただけるような演奏をする。それが奏者の責任です。
だからこそ、いつにも増して、奏者たちには高い読譜力や解釈力が要求されるのです。

今回の公開リハーサルではフォーレの作品の方を取り上げます。この曲をどのように捉え、何を追求すべきなのかということについて、皆で方向合わせをしていく場面を見ていただくことができます。

この二つの味わい深い素晴らしい作品を皆さんにおとどけできるのを楽しみにしております。

大山平一郎(Music Dialogue芸術監督・ヴィオリスト)


■ブラームス ピアノ三重奏曲第3番のオススメ音源:
https://www.youtube.com/watch?v=qqq6FAI9i1s
ジュリアス・カッチェン(piano) /ヨゼフ・スーク(violin) /
ヤーノシュ・シュタルケル(cello)
(大山氏はインディアナ大学在籍中にカッチェンとシュタルケルに室内楽のレッスンを受けていました)

■フォーレ ピアノ四重奏曲第2番の歴史的にも貴重な音源(1940年):
https://www.youtube.com/watch?v=hz60QkRuHpk
マルグリット・ロン(piano) /ジャック・ティボー (violin) /モーリス・ヴュー
(viola) /ピエール・フルニエ (cello)

 


大山 平一郎 【Music Dialogue芸術監督】
英国のギルドホール音楽学校を卒業。1979 年にロサンゼルス交響楽団の首席ヴィオラ奏者に任命された後、同楽団の副指揮者に任命される。カリフォルニア大学教授、ラホイヤ・サマーフェスト、サンタフェ室内楽音楽祭、九州交響楽団の常任指揮者、大阪交響楽団の音楽顧問・首席指揮者等を歴任。福岡市文化賞、文部科学大臣賞(芸術祭優秀賞)を受賞。CHANEL ピグマリオンデイズ 室内楽シリーズ アーティスティック ディレクター。ロベロ劇場室内楽プロジェクト 芸術監督(米国 Santa Barbara)。
https://www.hirasaoffice06.com/artists/view/69


○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】9月12日(火) 19:00開始  (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,500円、学生 500円 (自由席)
【曲目】フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.)
【解説】笹沼樹(チェリスト)、小室敬幸(作曲、音楽ライター)


○本公演
【日時】9月15日(金)19:00開演  (18:30開場)
【会場】目黒パーシモン小ホール
【料金】一般 4,000円、学生 2,000円 (指定席)
【曲目】
 ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.101
 フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.) 



※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
※お客様のご都合による申し込み後のキャンセル及び返金はお受けできません。予めご了承ください。


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