コラム

【ディスカバリー・シリーズ9月公演に向けて】 柴田 花音さんインタビュー

2023.09.03

第92回日本音楽コンクールチェロ部門決勝へコマを進め、今まさにその活躍が注目される柴田花音さんが、9月のディスカバリーシリーズに出演されます。今秋からカナダからアメリカに拠点を移すこと、今回のプログラムやご自身の室内楽への取り組みなどについて、伺いました。

 

トロント王立音楽院卒業式の一コマ

|カナダからアメリカへ

——今春、トロント王立音楽院グレン・グールド・スクールを卒業し、秋からはアメリカのノースウェスタン大学ビーネン音楽院へ進学されるとうかがいました。おめでとうございます!

柴田 有難うございます。ノースウェスタン大学はずっと憧れの学校でしたので楽しみです!引き続きイェンセン先生のもとでしっかり勉強し、ミシガン湖沿いの自然豊かなキャンパスでのリフレッシュもバランスよく出来たらいいなと思っています!

ノースウェスタン大学のロビー(お気に入りの場所の一つです)

|フォーレとブラームス|フォーレとブラームス

——Music Dialogueでのピアノ四重奏曲第2番も含め、今年はフォーレの作品を演奏する機会が多いようですね。フォーレの様々な作品に触れることで見えてきた特徴や魅力があれば教えてください。

柴田 7月に友人たちとフォーレのピアノ五重奏曲第2番を演奏し、今回のディスカバリーシリーズではピアノ四重奏曲第2番。今年はフォーレの傑作を二つも演奏させて頂くのかと緊張しておりました。
彼の作品に触れるたび、とにかく和声がお洒落…… !!と感じますね。それからヴィオラの使い方が本当に素敵で、いつも豊かなヴィオラの響きに溢れているところが本当に魅力的で。
9月の公演では、大山先生の心揺さぶられる音色に隣でどっぷり浸れる事を楽しみにしています!自分のパートもあるので、心を持っていかれなすぎないように気をつけます(笑)

——今回のコンサートではフォーレの作品と共に、ブラームスのピアノ三重奏曲第3番が取り上げられます。作曲された頃、フォーレはまだ人生のなかば、ブラームスは晩年へ向かっていく時期と、人生の置かれた状況は違いますが、どちらも1886年に完成した作品というのが面白いです。

柴田 確かに私も同じ時代に作曲されたと思えない程まるで違う作品に感じます。

——逆に、何か同時代性を感じる部分はありますか?

柴田 どちらもその前の時代の作品に比べると、人間のやるせない部分やどうしようもない部分も包み隠さず表現され、人間味溢れていて共感しやすいように思えます。 
その点は両作品に共通する魅力に感じますね。

——こうした作曲家の年齢や活躍した国の違いについて、どんなことを意識して演奏されますか?

柴田 作曲家が生まれ育ち活躍した国や話した言語をよく知ることは、作品の様式感等を捉える上で大きな影響を与えると思います。
最近シューベルトの作品を演奏したとき、オペラのアリアっぽく歌って演奏するのではなく、ドイツリートを意識して演奏するようアドバイスを頂きましたが、初めはそれがどういう事なのか頭では分かっていても、なかなか演奏に結びつける事ができず……。しかし作品に共感しそれを表現したいと思って、どのように表現をしたら良いか答えを見つけていく中で、作曲家の出自や置かれた状況、時代性に目を向けてみたところ大きなヒントを得られたので、多角的な視点から作品を勉強する重要性を改めて感じました。
ちなみに私が現在演奏させて頂いている楽器は1694年製なので、フォーレとブラームスの二人共と同じ時代を歩んできた楽器であることを感慨深く思っています。最近では演奏に悩むと、この楽器がガイドしてくれると信じて自分を委ねています。イェンセン先生もいつも「Ask your cello. He knows the answer!(そこは君のチェロの方がよく知ってるんじゃない?)」と冗談でよく仰ってます(笑)

|室内楽への取り組み

——Music Dialogueでは2019年の室内楽塾でも柴田さんに来て頂きました。2021年3月ディスカバリー・シリーズに向けたメッセージではその時を振り返って「2年前は室内楽の経験がまだ少なかった」とおっしゃっていましたが、それから4年で何か変化はありましたか?

柴田 私は普段からアンサンブルグループを組んでおりませんし、残念ながらいまだに室内楽に触れる機会が多いとは言えません。
ですが室内楽塾やディスカバリーシリーズへの出演では大山先生に音楽の作り方を一から教われただけでなく、音を通して共演者・そして聴衆の皆様と会話しコネクトする楽しさや喜びを教えて頂きました。4年間で何度か室内楽に取り組む機会がありましたが、怖がりな私がポジティブな思いで全てに取り組めたのはMusic Dialogueでの幸せに満ちた経験があったからこそと感謝しております。

——協奏曲やソナタなどでご自身がメインとなる時と、アンサンブルの一員として演奏する際では演奏はどう変わりますか? また、編成が弦楽器だけの場合と今回のようにピアノが入る場合とでも、チェロの演奏の仕方に違いはありますか?

柴田 協奏曲やソナタ等でもアンサンブルという面では意識的に変える事は何もないのですが、やはり弦楽器だけの編成となるとチェロはバス(低音部)を支える要素が強くなり、他のメンバーがのりやすい、弾きやすいバスが必要とされる点で違いを感じます。
日本で長年師事していた先生がいつもレッスン中、私が勉強している曲のバスの部分を弾いて下さるのですが、その度にとても演奏しすくなり、曲の世界に入り込むのが本当に楽しくなるという経験を何度もしました。その影響から、共演者を支えつつ色々な世界へ連れてゆけるバスを弾けるチェリストになれたらと長年志しています。決して簡単なことではないのですが。

——最後に、ディスカバリー・シリーズ9月公演を楽しみにしている方々に向けて意気込みやメッセージをお願いします。

柴田 ブラームスとフォーレの大曲二つを大山先生、そして初めて共演させて頂くヴァイオリンの矢野玲子さん、ピアノの太田糸音さんと演奏させて頂くのを私自身とても楽しみにしています。
Music Dialogueは演奏会だけでなく、公開リハーサルも行われるという事が大きな魅力ではないかと思っております。公開リハーサルから演奏会までどのように「対話」が変化していくのか、是非両日共、聴きにいらしていただけましたら幸いです!

(インタビュー:山下実紗(MD Writing Intern Project)/構成・編集:白沢達生) 

       


柴田 花音 SHIBATA Canon 【チェロ】
2000年愛知県出身。第14回ビバホールチェロコンクール第1位。Robert W. and G.Ann Corcoran Concerto Competition 2022グランプリ受賞(カナダ)。GGS Chamber Music Competition 2023 Duo部門、Chamber Group部門共に第1位(カナダ)。他受賞多数。2022年度・2023年度ロームミュージックファンデーション奨学生、第52回公益財団法人江副記念リクルート財団奨学生。これまでに林良一、野村友紀、山﨑伸子、アンドレス・ディアス、ハンス・イェンセンの各氏に師事。トロント王立音楽院グレン・グールド・スクールを経て、現在、ノースウェスタン大学ビーネン音楽院へ特別特待奨学生として在学中。使用楽器は宗次コレクションより貸与されたGiovanni Grancino(1694年製)、使用弓は西村賢治氏より貸与されたEugène Sartory。


○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】9月12日(火) 19:00開始  (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,500円、学生 500円 (自由席)
【曲目】フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.)
【解説】笹沼樹(チェリスト)、小室敬幸(作曲、音楽ライター)


○本公演
【日時】9月15日(金)19:00開演  (18:30開場)
【会場】目黒パーシモン小ホール
【料金】一般 4,000円、学生 2,000円 (指定席)
【曲目】
 ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.101
 フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 ト短調 Op.45
【出演】太田糸音(Pf.)、矢野玲子(Vn.)、大山平一郎(Vla.)、柴田花音(Vc.) 



※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
※お客様のご都合による申し込み後のキャンセル及び返金はお受けできません。予めご了承ください。


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