室内楽を通じて諸国を巡る旅、続く
~ 【ディスカバリー・シリーズ】2026/27年シーズンに寄せて ~

2026.03.21

2026年3月のディスカバリー・シリーズは、二重奏・室内楽・弦楽アンサンブルという三つの異なる室内楽編成を通じ、前年からのテーマを総括する形でヨーロッパ近代音楽の大きな広がりを実感できるプログラムとなりました。
その「広がり」を改めて読み解きつつ、続く2026/27年シーズンに継承される北欧・中東欧めぐりの旅を概観します。

 室内楽という分野は、ヨーロッパ諸国で楽譜を読める人がどんどん増えていった18世紀から19世紀に大きく花開きました。録音技術が普及する前、誰かが演奏しなければ音楽が鳴らなかった世界で、ごく数人の演奏者と楽譜さえ揃えば複雑かつ魅力的な音楽に親しめるジャンルとして注目されていたのです。

 特に19世紀には、各地で進んだ工業化やインフラ発展とあいまって都市部に人がどんどん集まり、暮らしが整理され余暇を楽しめる余裕が生まれたため、多くの人が新しいエンターテイメントを熱望していました。スポーツに興じる人、観劇に熱をあげる人、新作小説を読みあさる人……そうして情熱を注ぐ先の一つとして音楽があり、オペラやオーケストラより手軽に複雑な音楽を味わえる手段である室内楽には確かな需要があったのでした。


 

ベルギーの画家カレル・メルテンス(1865-1919)による「三重奏」(1891)
ベルギー王立アントウェルペン美術館所蔵

 都市部ではアマチュア演奏家が気軽に集まりやすかっただけでなく、集客を見込んでやってくる一流音楽家たちの演奏に触れる機会も多くありました。プロ奏者による室内楽演奏会も徐々に増えてゆき、作曲家たちはそうした場を見込んで、プロの演奏でこそ映える難しく奥深い曲も書くようになります。

 鉄道や蒸気船の発達によって長距離移動がしやすくなった19世紀以降は、フランスやドイツ、英国などの大都市に諸外国の人々がやってきて、その町ならではの豊かさを享受したり、逆に自分たちが昔から受け継いできた伝統を広くアピールしたり、文化交流も大きく進みました。

 ヨーロッパ東部や北部の国々で生まれた作曲家たちが、西欧の大都市で育まれたソナタや弦楽四重奏曲といった形式で新作を書き、より多くの人々の耳に届けるようになってゆくのも、そんな時代のこと。そこに故郷の伝統音楽に特有な要素を盛り込むことで、彼らの出身地ならではの息吹を遠くの人々にも感じてもらえるようになったのです。

ボロディン『弦楽四重奏曲 第2番』の出版譜表題ページ。

ロシア文字を使わずフランス語で書かれている。ドイツのライプツィヒに拠点を得たベリャーエフ出版社から刊行。


 2025~26年のMusic Dialogueディスカバリー・シリーズ総決算となる3/1の演奏会でも、そうした状況の中で生まれた作品が多くとりあげられました。またグリーグ『ホルベアの時代より』やブリテン『シンプル・シンフォニー』、エルガー『序奏とアレグロ』などは、バロック期以前のヨーロッパ世界に息づいていた古い音楽の様式を取り込み、それらの音に触れた人々を時間軸でも遠く離れた世界へ誘う音楽でもありました。


 2026~27年シーズンのディスカバリー・シリーズでも、この流れに続く形で中東欧・北欧諸国の作曲家たちが続々登場します。

 前シーズン未踏の地であるポーランドの作曲家も登場。英国諸島やノルウェーなど北海周辺の伝統もより深く味わえます。またブラームスのピアノ四重奏曲やドホナーニのセレナードなど、一見しただけでは民俗的なことと縁がないように見える作品も、実際に聴いてみれば何かしら地域性に深く根差した特徴が脈々と息づいていると気づかされることでしょう。

 さまざまな地域の作曲家たちを惹きつけた、幾つかの巨大都市の求心力も浮き彫りになりそうです。ポーランドのショパンやモシュコフスキが拠点を定めたパリ、ドヴォルザークやスメタナに活躍の場を与えたプラハ、ブラームスやシェーンベルクにとってのウィーン、ドホナーニやバルトークを育てたブダペスト、そして彼らの作品紹介の場となり、同時にホルストやブリッジの活動歴が刻まれていったロンドン……。

 4回の演奏会を通じ、二重奏から弦楽アンサンブルまで多様な編成でお届けするディスカバリー・シリーズを通じ、新シーズンも室内楽の奥深さをじっくり味わっていただければ幸いです。

( 白沢 達生 )

2026~27年シリーズに登場する作曲家たち(抜粋)


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