【ディスカバリー・シリーズ3月公演に向けて】 芸術監督 大山平一郎より

2026.01.31
3月のディスカバリー・シリーズ公演に向けて、芸術監督 大山 平一郎からメッセージです。
ダイアログの一コマ

昨日、友人からの思いがけない誘いにより、サンタ・バーバラ美術館(Santa Barbara Museum of Art)を訪れる機会を得た。館内では、ダラス美術館(Dallas Museum of Art)所蔵のバルビゾン派および印象派の作品が、地元の人々から寄贈された同時代の絵画と並び、静謐な対話を交わすかのように展示されていた。

ウジェーヌ=ルイ・ブーダン(1824~1898)

『トゥルーヴィル港の満潮時の眺め』 (1894)

個人蔵


実はその前日、Music Dialogueの事務局より、三月公演の演目について所感を寄せてほしいとの依頼を受けたばかりであった。何を、どのような言葉で紡ぐべきか思案していた矢先の出来事である。
美術館に入り、最初の展示室に足を踏み入れた瞬間、私は直感した。眼前に広がる絵画群は、まさに今回のMDコンサートの演目を「可視化」したものではないか、と。ロマン派から近代、そして現代へと連なる音楽の系譜が、色彩と筆致となって立ち現れていたのである。

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796~1875)
『廃墟となった城塞の堡塁[』(1855~1865)

サンタ・バーバラ美術館所蔵

フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ(1853~1890)
『麦束』 (1890)

ダラス美術館所蔵


室内楽曲と管弦楽曲のあいだには、「室内合奏曲」という領域が存在する。編成はおよそ九名から二十名。そこには、いまだ十分に紹介される機会を得ていない名作が数多く眠っている。今回取り上げる作品群もまた、この美術館に展示された絵画のように、それぞれが際立った個性と豊かな表情を湛えている。

グリーグの作品は古典的な組曲形式を採りながら、譜面に記された音符の行間から、計り知れない抒情と気品が立ち昇る。
ブリッテンは、現代音楽への扉を開いた作曲家であり、この作品は彼が二十歳のときに書いたものだ。躍動感と意表を突くリズムを生み出すアーティキュレーションは、奏者がいかに自在に弓を操り、指先を研ぎ澄ませるかに委ねられている。——弓だけでなく、右手の指もまた雄弁でなければならない。 それはあたかも、点描技法を編み出したスーラやピサロの絵画のようである。
英国作曲界の重鎮エルガーは、創作力が頂点にあった時期、この作品を世に送り出した。創設間もないロンドン交響楽団の弦楽セクションが誇る卓越した技術を余すところなく示すべく、作曲を委嘱された背景を持つ。ここでも用いられているのは、古典的なコンチェルト・グロッソの形式である。
私がこれらの曲を選んだ理由は——言うまでもなく、Music Dialogue弦楽アンサンブルの実力を、音楽そのものによって語らせたいと考えたからにほかならない。

水の流れ、光の移ろい、風の動き、そして感情や心理の推移。本公演の演目は、室内楽を含め、そうしたさまざまな「流れ」を描き出すことを志向している。その基盤にあるのは、バロック期以来、脈々と受け継がれてきた作曲形式と技法であり、先人たちが長い歳月をかけて培い、磨き上げてきた音楽的伝統である。

この演奏会にお越しくださる皆さまに、ひとつお願いがある。ぜひ、ご自身の心に留めているいくつかの絵画を思い浮かべながら、私たちの演奏に耳を傾けていただきたい。音に導かれて風景がまぶたの奥に浮かび、風の流れを肌で感じ取っていただける——私はそう信じている。 どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

大山 平一郎

アルフレッド・シスレー(1839~1899) 
『ヴィル・ダヴレーの通り』(1873)

個人蔵

大山平一郎 撮影


チケット発売中。公開リハーサルの一般席は完売となりました。

○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】2026年2月27日(金) 18:30 開始(18:00 開場)
【会場】めぐろパーシモン小ホール
【曲目】グリーグ  ホルベアの時代から(ホルベルク組曲) 作品40
    ブリテン  シンプル・シンフォニー 作品4
    エルガー  序奏とアレグロ 作品47
【解説】小室 敬幸(作曲、音楽ライター)

○本公演
【日時】2026年3月1日(日) 15:00 開演(14:30 開場)
【会場】Hakuju Hall
【曲目・出演】
ー 第1部:DUO・室内楽 ー
コダーイ  ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7
 矢野 玲子(ヴァイオリン)/ 笹沼 樹(チェロ)
ボロディン  弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調
 土岐 祐奈(ヴァイオリン)/ 伊東 真奈(ヴァイオリン) / 中 恵菜(ヴィオラ)/ 加藤 文枝(チェロ)

第2部:弦楽アンサンブル ー
グリーグ  ホルベアの時代から(ホルベルク組曲) 作品40
ブリテン  シンプル・シンフォニー 作品4
エルガー  序奏とアレグロ 作品47
      ソロ四重奏団:石上 真由子・伊東 真奈・田原 綾子・金子 鈴太郎

 指揮:大山 平一郎
 第1ヴァイオリン:水谷 晃・石上 真由子・土岐 祐奈・矢野 玲子
 第2ヴァイオリン:枝並 千花・伊東 真奈・北川 千紗
 ヴィオラ:中 恵菜・田原 綾子・菊田 萌子
 チェロ:加藤 文枝・金子 鈴太郎・笹沼 樹
 コントラバス:永井 桜・瀬 泰幸


 



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