コラム

【ディスカバリー・シリーズ2月公演に向けて】 芸術監督 大山平一郎よりメッセージ

2024.01.14

ディスカバリー・シリーズ2月公演に向けて、芸術監督 大山平一郎からのメッセージです。

 DUOプロジェクトが昨年11月に大団円で終了したばかりだが、2月にはMusic Dialogueの主要行事であるディスカバリーシリーズが開催される。この2つの演奏会では大山の関わり方が異なる。コーチとして奏者と向き合うDUOプロジェクトと、奏者として参加するディスカバリーシリーズ……。しかし異なる参加の仕方でも「気持ちの変化はない」という。


 「これまでに僕もすばらしい先輩方と勉強させてもらい、この曲に対してはこういう固定観念があるべきという想いはありますが、新しい世代から生まれてくる考え方、アプローチがあるんじゃないかと。あるとしたらそれはなんだろう?って、アンテナを張りながら接しているつもりです」
 大山はよくMusic Dialogueのことを音楽演奏の研究の場と説明しているが、指導者としても奏者としても常に新しい発見を探しているのだ! 2月のディスカバリーシリーズでは、ベートーヴェンとシェーンベルクの作品が披露される。2作品を続けて聴くとスタイルの違いに驚く。約100年間のめまぐるしい音楽の歩みが凝縮されたプログラムになっている。

アルノルト・シェーンベルク(1874~1951)
『思考』(1910)
アーノルドシェーンベルクセンター所蔵
※シェーンベルクの絵画は、精神の内面を表出した表現主義的作品として知られる


 「ベートーヴェンという大作曲家が改革し、いろんなことを作り上げた大きな節目を経て、今度はそういうルールから離れて何か作れないかと模索する時代に突入するシェーンベルク。だから弾く方としては大きな時代の最初と最後の重要な曲を演奏します」
 今回のプログラムは奏者にとっても鑑賞者にとっても意義深いものになりそうだ。選ばれた作品はスタイルも違えば、それぞれ要求されることも異なる。《浄夜》というと無調音楽への過渡期にあたる作品で一聴するだけでかなりの難易度であることがわかる。
「この10年間くらい、《浄夜》が演奏される機会がかなり増えたとはいえ、簡単には手は出せない曲ですが、今回何人かはこの曲を知り尽くしているので不安感はないですね」

 シェーンベルクと比べると明快な印象を受けるベートーヴェンの作品であるが、そこには弦楽器で演奏する難しさがある。
「ベートーヴェンの(オリジナルの)ピアノだったら当たり前のように弾かれる、“アルペジオ”などを弦で再現するのは大仕事です。1人でやることを複数人でやるとその全員が同じ思いを持っていないと違う方向にいってしまう。ベートーヴェンを演奏するために必要な技術もかなり高いものが要求されるので、非常に難しい曲だと思います」

 大山が初めて《浄夜》を演奏した約50年前のマルボーロ音楽祭には、共演者にヴァイオリンのフェリックス・ガリミア(ガリミール)がいた。
「ガリミアさんはシェーンベルクの曲をリハーサルする時、実際に作曲家が横にいて指示を受けた人物。(マルボーロ音楽祭で彼と)この曲を弾き終えた時、魔法の中にいたみたいな感じで。一番最初に弾いた時はちゃんと理解できてなかった。たまたま素晴らしいコーチの方々と弾いたから辿り着けただけだと思います」

 その後大山はもう一度ガリミアと共演している。大山はこの経験をさらに若い世代に受け継いでいく。今回大山が若い奏者たちとどのような演奏を披露するのかも聴きどころのひとつだ。
「例えば楽譜に少しゆっくりめと書いてあるけど、シェーンベルクと接した人と一緒に弾いたことで、実際のテンポ感が分かる。これは大きな宝だと思います。この曲はガリミアさんと2回弾いたから絶対に忘れない」

 2月14日の公開リハーサルではベートーヴェンの弦楽五重奏曲を初合わせする。
「この弦楽五重奏曲は演奏家にもほとんど知られていない。でもオリジナル版であるピアノ三重奏曲(作品1-3)は音楽演奏に関わっている人はみんな知っている曲だから、イメージというものはかなりできていると思います。だけど、人によってどれだけイメージが違うのかも面白いところです。(弦楽五重奏版は録音も少ないため、)ピアノ三重奏版を聴いてから弦楽五重奏版を聴きに来ていただけたら、ピアノが弦楽器にどのように書き換えられているかなども分かりさらに面白いと思います」
 ……と、演奏会までの楽しみ方も提案している。リハーサル中の対話や“ダイアログの時間”も含めてどのように音楽が完成に近づくのかを見て聴いて楽しみたい。

「いろいろな面白い観点がこの音楽会には込められていると思います。なんといっても今回川本さんの協力があるというのが非常に異例のことで、僕もワクワクしています。本当に素晴らしい奏者と大活躍の若い奏者が一緒にどのように演奏できるか楽しみです」


大山平一郎(Music Dialogue芸術監督・ヴィオリスト)

聞き手・構成:山下実紗(音楽ライター/MDライティングインターンプロジェクト卒業生)

 


大山 平一郎 【Music Dialogue芸術監督】
英国のギルドホール音楽学校を卒業。1979 年にロサンゼルス交響楽団の首席ヴィオラ奏者に任命された後、同楽団の副指揮者に任命される。カリフォルニア大学教授、ラホイヤ・サマーフェスト、サンタフェ室内楽音楽祭、九州交響楽団の常任指揮者、大阪交響楽団の音楽顧問・首席指揮者等を歴任。福岡市文化賞、文部科学大臣賞(芸術祭優秀賞)を受賞。CHANEL ピグマリオンデイズ 室内楽シリーズ アーティスティック ディレクター。ロベロ劇場室内楽プロジェクト 芸術監督(米国 Santa Barbara)。
https://www.hirasaoffice06.com/artists/view/69


○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】2月14日(水) 19:00開始  (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,500円、学生 500円 (自由席)
【曲目】ベートーヴェン:弦楽五重奏曲ハ短調 Op.104
【出演】前田妃奈(Vn.)、北田千尋(Vn.)、川本嘉子(Vla.)、大山 平一郎(Vla.)、加藤文枝(Vc.)
【解説】金子鈴太郎(チェリスト)、小室敬幸(作曲、音楽ライター)
○本公演
【日時】2月17日(土) 16:00 開演(15:30 開場)
【会場】築地本願寺 講堂(聞法ホール2F)
【料金】一般 4,500円、学生 2,000円 (指定席)
【曲目】
 ベートーヴェン:弦楽五重奏曲ハ短調 Op.104
 シェーンベルク:弦楽六重奏曲 ≪浄夜≫ Op. 4
【出演】前田妃奈(Vn.)、北田千尋(Vn.)、川本嘉子(Vla.)、大山平一郎(Vla.)、金子 鈴太郎(Vc.)、加藤文枝(Vc.) 



※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
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