【水谷晃さん✕笹沼樹さん Music Dialogue特別インタビュー】前編

2026.09.02

ふるさとに帰って、妄想の種を撒く
――水谷晃×笹沼樹が語る「対話」の魅力と、日常にあふれる「妄想の種」

2026-2027シーズンのディスカバリー・シリーズは「東欧・北欧の音楽」をテーマに掲げており、9月公演ではグリーグとドヴォルザークの名曲をお届けする。この公演に出演する水谷晃さん(ヴァイオリン)と笹沼樹さん(チェロ)にお話をうかがった。インタビュー前編ではMusic Dialogueとの出会い、共演者であるピアニスト・上田晴子さんを巡るエピソードについて語ってもらった。





■ Music Dialogueとの出会い、お客様との対話について

――まずはお二人のMusic Dialogueとの出会いから、遡っていきたいと思います。水谷さんは10年以上前からMusic Dialogueの演奏会に出演されていますが、初回リハーサルの公開や、お客様と演奏後に直接やり取りをする“ダイアローグ”といった、Music Dialogueならではの取り組みについて、はじめどんな印象をお持ちでしたか?

水谷「そうですね、僕が最初にMusic Dialogueで演奏させていただいたのは、団体が設立する前の年だったと思います。千葉清加ちゃんとか、金子鈴太郎君と一緒に、ブラームスのクインテットをやったのが僕にとって大山さんを含めたMusic Dialogueとの初めての出会いでした。
 音楽的なリハーサルを聴いていただいて、本番で演奏した後にお客さんと音楽を通して色々シェアできる時間っていうのは、最初どんな感じかなと想像できない部分もありましたね。でも実際にやってみると、やっぱり演奏会直後のお客さんの生の声を聞かせていただけるっていうのは、自分のフィードバックとして、とてもありがたい時間でした。
 今となっては、自分が意見しながら企画する演奏会でも、色んな面でMusic Dialogueの活動は参考にさせていただいています。」

――お客様からの直の反応というのは普段なかなか知り得ない、新鮮なものだったんですね。

水谷「うん、とっても。お客さんもきっと、演奏を聴いた後に新たな疑問が生まれていると思うんですよね。それを演奏会終わってすぐ、まだ心も体も温まっている状態で、まさに今弾いたばかりの演奏家に言えるのはすごく面白いんじゃないかなと思います。自分がお客さんだと想像しても。演奏家としては「そんな風にこちらの演奏が伝わったんだ」っていうのを知ることができて、本当に面白いです。」

――笹沼さんは2019年からMusic Dialogueに参加されていますね。

笹沼「最初が何の演奏会だったのか今となってはもう覚えてないんですけど、そうだったと思います。ひょんなことから2016年に大山先生と出会って、それがもう本当に偶然の出会いだったというところから、あっという間に色々な場所で先生と一緒に演奏をする機会をいただいて。
 そこからシャネルのピグマリオン・アーティストだとか、大山先生とたくさんの繋がりが生まれました。シャネルの方では、室内楽シリーズという名物企画があったので、そういったところでも一緒に演奏しました。」

――大山先生には、笹沼さんがロサンゼルス(LA)に向かう空港でチェロ用の座席を購入していたときに、話しかけられて、それが初対面だったそうですね。

笹沼「そうそう(笑)。LAに着いてからも、ご自身の車で会場まで送ってくださって。その出来事が最初のご縁でした。Music Dialogueでは演奏だけじゃなくて、解説がついた状態でリハーサルの最初の音をみんなに聴いてもらいますけど、それってなかなか無い経験ですよね。
 ふつう公開リハーサルっていうと、ある程度完成した状態のものを、普段は観客がいないところにお客様が入って特別感があるっていうものなんです。でもMusic Dialogueの公開リハーサルには、そういう特別感が無いというか(笑)。本当に奏者も、お客様も、どうするんだろう、どうなるんだろう、みたいな感じ。」

――他の演奏会や公開リハーサルでは味わえない雰囲気がありますね。

笹沼「そんな状態の1音目を皆さんに聴いてもらうので、聴く方も弾く方も集中してその場に集まっていて、それはMusic Dialogueならではなんじゃないかなと思っています。公開リハーサルから聴いてくださるお客様って、大体の方が本公演も聴いてくださっているので、「私たちが育てました」みたいな空気感があってもおかしくない(笑)。聴衆の方々にそれくらいの熱量があるっていうのは、僕たちにもすごく伝わっています。」

ピアニスト・上田晴子さんをめぐって

――お二人の関係性、また、今回共演されるピアニスト・上田晴子さんの印象について、うかがいたいです。

笹沼「僕からしたら、晴子さんと水谷さんっていうのは、僕が学生のときから第一線で演奏されていた方っていうイメージがあって、本当に大先輩だな、という感じです。水谷さんはMusic Dialogueで弟みたいに可愛がってくださっていて、晴子さんとはデュオとして様々な作品に取り組んでいますので、今回はいい意味で緊張してないですね。MDファミリーという親戚の集まりです、みたいな感じでとても楽しみです。」

水谷「僕からしたら、晴子さんと笹沼君のデュオはできあがっているから、そこにお邪魔させていただく、みたいな感じですわ(笑)。」

笹沼「でもトリオになったらね、どうなのかな(笑)。晴子さんとトリオはそんなにやってなくて、1回だけブラームスのトリオを弾いたぐらい。」

――水谷さんは2021年Music DialogueのDUOシリーズで上田さんとリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタを演奏されています。水谷さんにとって、上田晴子さんはどのような存在ですか?

水谷「かっこいいですよね。かっこいい。僕が、初めて演奏するリヒャルト・シュトラウスを晴子さんと一緒に弾かせていただいたのは本当にありがたい機会でした。晴子さんのピアノは工夫されて、こだわり抜かれた、という感じです。ピアノパートからオーケストラが聞こえてくるような演奏で、それを実現させるためにいろんなテクニックを研究されている方だな、と思いました。晴子さんとの共演は、表現への認識が更新されるような、とっても刺激的な時間でした。」

――笹沼さんが上田晴子さんと初めて共演したのはいつだったんですか?

笹沼「最初に晴子さんと弾いたのが、Music Dialogueのピアノ・クインテットで、ブラームスでしたっけ。」

2019年ディスカバリー・シリーズ

水谷「一緒だったよね。あれが初めましてだったの?」

笹沼「そう、あの時、晴子さんと初めて演奏するんだ、みたいなことになり。クインテットを弾き出して音を聞いた時に、やっぱり「あ、この人全然違う、一緒にこの先も弾いてもらいたい人だ」と思って。それで最後のリハーサルの日の帰りの電車で、「あ~なんかこれで本番終わっちゃってバイバイなのはなんか寂しいな」って思ったんです。

水谷「うわ、告白やん(笑)。ふふふふ。」

笹沼「それで、「この後も一緒に弾いてくれませんか?」って言ったら「私もそう思っていたのよ」みたいにおっしゃってくださって。」

水谷「えー!(笑)」

笹沼「そこからデュオが始まったんです。だからMusic Dialogueがきっかけでした。もちろんそれ以前も、いろいろなピアニストと共演して印象的な経験がたくさんありましたよ。だけど一緒にレコーディング残したいなって思えるようなピアニストってなると、晴子さんだなと思って、今に至っています。」

――昨年8月にリリースされた上田さんと笹沼さんのCD「夜と光の出会うところ」は『レコード芸術』の室内楽/器楽部門で年間ベストにも選出されました。

「夜と光の出会うところ」

笹沼「晴子さんと一緒に演奏して、僕の中で変わったことの1つとして、スコアを見る時間が格段に上がったんですよね。それまでって、練習の時に眺めたり、たまにはピアノも弾いてみたりしてどんな風になっているのか勉強する、みたいな感じで捉えていたんです。でも2人で演奏していると、ひとつの楽器みたいになるべき瞬間や、はたまた僕が伴奏となって晴子さんが歌う瞬間があって。
 そうなってきた時にひとつの有機的なものとして捉えなきゃいけないんだなって思うようになりました。そのことがきっかけで、今ではデュオの本番でも、他のレパートリーでもスコアを見ながら弾いていますね。」

――今回の共演にどんな期待をしているかお伺いしたいです。

水谷「どんなものが共有できて、どんなものが得られるんだろうっていう期待はもちろんありますし、僕らが何を目指して《ドゥムキー》を弾くのか、それをお客さんがどういう風に受け止めてくれて、どんな言葉で返ってくるのかっていう興味深さがあります。」

――笹沼さんはいかがですか?

笹沼「水谷さんも晴子さんも、すごく博識だし、面白い方なので、斬新なキーワードだったり、名言が飛び出したりするんじゃないかなって僕は勝手に思っています(笑)。面白いシーンが絶対出てくると思っているので、きっと聞いてくださっている方々にとっても、充実した演奏会になるんじゃないかなと思っています。」

水谷「僕は先月(5月末)に違うピアニストとグリーグの2番を初めて弾いたんですよね。ピアニストが変わると自分の中の音楽もどれだけ変わるのか、自分でも興味深いです。」

――グリーグのヴァイオリン・ソナタといえば3番が有名ですが、そちらは演奏されたことありましたか?

水谷「僕、3番は弾いたことがないんですよね。ピアノの友達と一緒に演奏会をやるときに初見で音出しみたいなことはありますし、学生さんの演奏聞くこともあるんですけれど、僕はあまりグリーグの3番というのを自分から弾きたいという風に今までならなくて。でもグリーグの2番は弾きたいと思ったんです。」

――それは何故なのでしょう? 2番と3番には作曲された時期に20年の差がありますし、まったく印象が違いますよね。

水谷「そうそう。2番の方がもっと謙虚さがあるし、透明だし、素朴。そんなイメージを持って取り組みました。きっと晴子さんの中には違うものがあると思いますので、二人のイメージをどういう風にシェアしながら形にしていくのか、とても楽しみです。 」

(後編に続く)

■ 聞き手・執筆:今泉 泰紀(ライティング・インターン)

■ 編集:小室 敬幸(音楽ライター)


水谷 晃(ヴァイオリン)
大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。在学中Verus String Quartetを結成し松尾学術振興財団より助成を受け、イェール大学夏期アカデミー・ノーフォーク室内楽フェスティバルに参加。その後、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第三位入賞。
2010年4月より国内最年少のコンサートマスターとして群馬交響楽団コンサートマスターに就任。2013年4月〜2023年3月まで東京交響楽団コンサートマスター。10年間の在団中、音楽監督ジョナサン・ノット氏指揮での「英雄の生涯」を含む多数のCDが発売。
2024年4月より東京都交響楽団コンサートマスターに就任し、現在、オーケストラ・アンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。ゆふいん音楽祭音楽監督を務める他、室内楽奏者として木曽音楽祭を含む各地の音楽祭にも出演。母校・桐朋学園大学講師として後進の育成にも取り組んでいる。Music Dialogueアーティスト。


笹沼 樹(チェロ)
第20回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。第65回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第3位入賞及び特別賞を受賞。2019年ニューヨークヤングコンサートアーティストオーディションでは日本の弦楽四重奏団として東京クァルテット以来50年ぶりの第1位を受賞した。
ソリストとして国内主要オーケストラのほか、プラハ国民劇場オーケストラ、バーデンバーデンフィルハーモニー管弦楽団をはじめとするオーケストラと共演。2023年の6月、7月にはダニエル・ライスキン指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会(スロヴァキア ブラティスラバ)および日本ツアーにソリストとして登場、9月にはサントリーホール公演のライブCDがリリースされた。
室内楽奏者としてはアルゲリッチ、ダン・タイ・ソン、ギトリス、メイエ、ヴィトマン、エルサレム弦楽四重奏団をはじめとしたアーティストと国内外で共演を重ねるほか、国内外の音楽祭にも度々招待されている。
カルテット・アマービレ、トリオ・リズル、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバーである。元東京交響楽団客演首席奏者。現在日本とパリを拠点にしている。Music Dialogueアーティスト。


ディスカバリー・シリーズ 2026-2027 9月公演

○公開リハーサル <完売>
【日時】2026年9月6日(日) 14:00 開始
【会場】中目黒GTプラザホール
【曲目】グリーグ ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番 ト長調 作品13

○本公演
【日時】2026年9日9日(水)19:00開演
【会場】めぐろパーシモンホール小ホール
【曲目】グリーグ ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番 ト長調 作品13
     上田 晴子(ピアノ)/ 水谷 晃(ヴァイオリン)
    ドヴォルザーク ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調 作品90「ドゥムキー」
     上田 晴子(ピアノ)/ 水谷 晃(ヴァイオリン)/ 笹沼 樹(チェロ)



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