コラム

【ディスカバリー・シリーズ12月公演に向けて】 芸術監督 大山平一郎インタビュー

2022.12.16

 ディスカバリー・シリーズ12月公演は、ブルックナーとミヨーという室内楽としては極めて珍しいプログラムが組まれています。これらの作品の魅力や聴きどころを芸術監督の大山平一郎に語ってもらいました。そしてMusic Dialogueの8年目のシーズンも3月公演でおしまい。2024年の10周年を見据えつつ、この8年間で積み上げてきたものを振り返ったり、近年の新しい試みであるDuo Projectについても総括してもらいました。

Music Dialogueの芸術監督として、聴衆と演奏者の双方へ「対話Dialogue」という新しい体験を提供してきた大山平一郎。来年2023年で結成9年目を迎えるMusic Dialogue(以下MD)のこれまでとこれから。そしてヴィオラ奏者として演奏にも参加するディスカバリー・シリーズ12月公演の曲目について、話をうかがった。
 

|自分の思いを演奏で表現できる、その上での設計づくり

——演奏者と聴衆の間の「対話」と練習での演奏者同士での「対話」は、MDの非常に特徴的な取り組みだと思います。実際に音楽を作る過程、しかも「初合わせ」を公開するというのは珍しいですよね。大山さんは過去にこうした取り組みをなさってきたのでしょうか

大山 もちろん、公開リハーサル自体は私自身、何百回もやってきました。けれどMDでやっているほど、ここまで踏み込んだ思いと意図を持ってやったことはありません。そういう意味で、これまでやっていなかったと言っていいくらいです。

 何故かといえば、ほとんどの公開リハーサルは、かなり出来上がっているものを見せるんですよ。つまり体裁を気にしているわけです。でも、MDでは本当に最初の練習を見せることで、そこで何が話されているか、言ってみれば企業秘密を全部ばらしているようなものなんです。そこまでやろうという奏者はなかなか少ないと思います。

——たしかに一般的に公開されるリハーサルは、ほとんど最終段階の確認程度というのが多いですよね。

 1回目の練習は誰がどのぐらいさらってきたか、誰々はどういうふうに弾くのか、小手調べのようにしてお互いに探り合いになるので、見せたがらない人も多いんです。なので完璧に練習してきてその合わせに挑むというより、探り合いながらどのように演奏するかをその場で考えることが多い。けれども、探り合いだとなかなか(解釈が)決まらないこともあって先延ばしにしてしまう。

 世界と比べ、日本は本番までの準備期間・練習回数が多いという事情もあります。これだけ素晴らしい奏者が多いにもかかわらず、曲について考えるのにとても時間を要しているんですよ。でも本来、作曲家がどういう傾向や心情を持って書いたのかということはリハーサルの前に大体わかっているべきですよね。ちゃんと事前に持ち合わせれば、そんなに時間をかけなくてもできるはずだし、そうでないといけないっていう思いがありました。

——MDではそうではないということですが、奏者にとっては大変なようにも思えます。

 MDの場合、最初のリハーサルに来たときには自分の思いを演奏で表現できるところまで持ってこなければいけません。そこから楽曲の設計づくりが始まるんですから。MDの前からやっていたシャネル(・ピグマリオン・デイズ)も3回のリハーサルと本番という日程で、最初はみんな「信じられない」と言っていました。でもそれが世界のスタンダードなんです。今ではみんな慣れてきていて、1回目のリハーサルに対しての心構えが変わってきたと思います。

 

|“デュオ”の意義をもう一度問い直す

——2022年9月、MDの新たな試みとしてスタートした「DUO Project」(アンサンブルの最小単位である“二重奏”を探求するシリーズ)の初年度において集大成となる演奏会が開催されました。このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

大山 楽器を演奏する際、無伴奏でない限りは他の誰かと一緒に弾きますよね。試験でもコンクールでも特にピアノと2人で演奏することが多いわけです。ところがピアノのパートに対する敬意が、あまり払われてこなかった。例えばベートーヴェンのソナタを弾く際、ピアノをただの伴奏だと思っている人はまだ多いんじゃないでしょうか。

 若いヴァイオリニストを世に出したいと思っているマネジメント(音楽事務所)が「〇〇ヴァイオリン・リサイタル 曲目……ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ」みたいな広告を出すこともあるので、PR(広報)のためにやっている場合はある程度しょうがないかもしれないですけど、演奏者自身もそう思ってしまうのはとても良くない。そうなると舞台の真ん中にヴァイオリニストがいて、ピアニストから何メートルも離れたところで「ピアノは私に合わせて、ついてこい」というような演奏になってしまう。そういう意識はやめてほしいんです。

——思い返してみても、共演ピアニストの名前がチラシや広告などでとても小さく印刷されていることはよくあります…… 

 作曲家の中で2つの楽器は対等なんです。協奏曲の場合でも、オーケストラとの共演前にはピアノと一緒に弾くわけですけど、だからと言ってソリストの好き勝手にできるというのはとんでもない間違い。オーケストラと指揮者に対しても「ただ私が弾くソロについてきなさい」というのは、音楽の本質をわかってない奏者だと思います。

 だからこそ今回、“デュオ”の意義をもう一度問い直した上で研究・探求をしたいと考えたんです。(DUO Project参加アーティストである)對馬さんとキムさんとは、演奏会までの6ヶ月間で何回もコーチングセッションや言葉のやり取りをしてきて、最終的に彼らは普通とは違う意識を持って演奏できたんじゃないでしょうか。そうであれば嬉しいです。

 それに審査員とコーチングを一緒に務めてくれた(ピアニストの)上田晴子さんと(ヴァイオリニストの)竹澤恭子さんという日本を代表する世界的奏者であり、デュオも室内楽も多く経験してきた人が「今回デュオをやることで色々なことを考えさせられた」って言ったんです。「もし自分が若くて、このようなものがあれば絶対に身を置きたかった。沢山のことを思い出し、気がつき、学ぶことができた」と。私自身、すごく意義があることをしたんじゃないかと密かに思っています。

 

|Music Dialogueというのは“研究ユニット”

——来年、つまり2023年でMDは10周年を迎えます。これまでの歩みを振り返っての感触や今後の展望を教えていただけますか?

 外から見れば、私たちはコンサート・プロデュースをするプレゼンターみたいに思われているかもしれない。けれども私を含めた運営陣や、(MDの事務局長である)伊藤さんのもとでマネジメントをやっている人、このライティング・インターン(※本インタビュー記事もライティングインターン企画の一環として書かれたもの)であったりと、MDはみんなが学ぶことのできる環境でもある。つまり、“研究ユニット”になってきているんです。

 お客様の反応はもちろん大事なことだけれど、携わる我々や支えてくださる方々が学んでいるというのも重要。演奏会を商売にしている団体にとってはチケットがいかに売れるかということが大切かもしれないけども、私たちがやっていることは大ホール規模の聴衆を相手にできるようなことじゃない。その代わり、来てくださった方全員が何か違うものを感じたり、何かを学んだり、経験することができたと思っていただければと思います。そういうことを考えながら成長していきたいからこそ、これまで従来とは少し違う形態で室内楽のコンサートをお客様に提供し、若い奏者には演奏を深める機会を提供してきたんです。

——そのためにはコンサートで何を演奏するのかも重要になってきますよね。

 Music Dialogueの重要なミッションのひとつは、若い奏者に室内楽のスタンダードな曲をまず習得してもらうということです。「あの曲を弾けるか」って尋ねられたときに、どこへ行っても「弾けます」と答えられるような自信をつけてほしい。ただ、今度の12月のメンバーはそうした一般的な作品をほとんど演奏してきているので、その後に何をするか考えた時に、これだけの顔ぶれが揃うんだったらブルックナーをやろうと思ったんです。

 もともと、ブルックナーの《弦楽五重奏曲》は2020年5月の演奏会でプログラムに載せた曲で、コロナの影響で2021年9月の演奏会と合わせて計2回延期してきました。なので、とにかくどこかでやらないと……という思いもありました。じゃあ何を一緒に持ってくるかと考えたとき、今度はミヨーが浮かんだんです。年齢は違うけれど、実はかろうじて同じ空気を吸ったふたりなんですよ(※ブルックナー:1824〜1896、ミヨー:1892〜1974)。

——普通では思い付かない組み合わせですね!?

 “伝統に則った奇抜さ”とも言えるのではないでしょうか(笑)。ミヨーは戦後、カリフォルニアのミルズ・カレッジで教鞭をとっていて、私の師匠であるヴィオラ奏者のウィリアム・プリムローズ(1904〜1982)とも親交がありました。大学時代に師匠に言われて、当時まだ知らなかったミヨーの《ヴィオラとピアノのためのソナタ》を演奏することになったんです。第2番はピアノが難しいんですが、とてもいい曲で以来ずっと弾いてきました。だから自分としてはミヨーの音楽に対する違和感は全くなくて。

——取り上げるバレエ音楽《世界の創造》はもともと室内アンサンブルのための作品ですが、今回はピアノ五重奏版が演奏されます。

 この曲はオリジナルが本当に素晴らしいので、Music Dialogueに予算がもっとあれば本当は17人のオリジナル編成でやりたいんですが、もう待てない(笑)。このピアノ五重奏版は第三者の編曲ではなく、ミヨー自身による公認のもので、だから取り上げたいと思いました。

——《世界の創造》だけでなく、ブルックナーの《弦楽五重奏曲》も演奏機会が少ない作品ですよね。

 これまでアメリカで(室内楽の音楽祭の)芸術監督を18年間務めてきて、ブルックナーのこの作品を何回やってきたかというと、実は2回ぐらいしかないんですよ。この曲を聴きたいという人も、演奏したいという人も本当に少ない。日本で私が活動を始めたときにも、ブルックナーがこういった曲を書いたと知る人はほとんどいなかったと思います。実は、ブルックナーのことは嫌いじゃないんだけれど、許せないところもあって。でも、これは名曲だと思います。

 演奏するのは本当に難しくて、奏者は技術だけじゃなく、ブルックナーのシンフォニーのイメージも持っていないといけない。たった5人でブルックナーの音楽を作らないといけないんです。なので、演奏者陣をみるとわかるように、全員が分厚い音を持った奏者が揃っています。芸術監督っていうのは総料理長なんですよ。バランスはもちろんのこと、予算まで考えているんです(笑)。

 聞き手&構成:山崎圭資(Music Dialogueライティング・インターンプロジェクト  写真:平舘 平


大山平一郎指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団によるブルックナー:交響曲第4番

お申し込みはこちらから
Music Dialogue ディスカバリーシリーズ 2022-2023 12月公演 in東京 – パスマーケット (yahoo.co.jp)


○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】12月20日(火) 19:00開始  (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,000円、学生 500円 (自由席)

○本公演
【日時】12月23日(金)19:00開演  (18:30開場)
【会場】加賀町ホール
【料金】一般 4,000円、学生 2,000円 (自由席)
【曲目】
 ミヨー:世界の創造(ピアノ五重奏版)
 ブルックナー:弦楽五重奏曲 ヘ長調
【出演】
 吉見友貴(Pf.)、石上真由子(Vn.)、北川千紗(Vn.)、田原綾子(Vla.)、
 大山平一郎(Vla.)、金子鈴太郎(Vc.)

※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
※お客様のご都合による申し込み後のキャンセル及び返金はお受けできません。予めご了承ください。 全てお座席は自由席となっております。


facebook twitter LINE