昨今、ますます多方面で活躍めざましいMusic Dialogueアーティストの石上真由子さんは、12月のディスカバリーシリーズにも出演します。そこで演奏されるミヨーとブルックナーの作品のこと、そしてMusic Dialogueでこれまで学んだことなど、いろいろとお話を伺ってみました!
ヴァイオリニストの石上真由子さんは、日本国内外での数々の受賞歴に加え、2022年6月にリリースした2枚目のCD「ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第1番」が、『レコード芸術』にて特選盤に選出されている。最近では、「題名のない音楽会」でチャイコフスキーの優美な弦楽四重奏第1番から、強烈な魅力を持つバルトークの弦楽四重奏第4番までを披露したことが記憶に新しい。その音楽性は室内楽だけではなく、ソロ、オーケストラと、どのジャンルでも発揮されている。 12月のディスカバリー・シリーズ公演では、ミュージック・ダイアログ(以下MD)の芸術監督でありヴィオラ奏者の大山平一郎さんと度々演奏してきた、ブルックナーの弦楽五重奏曲と、石上さんにとっては初演奏のミヨーの《世界の創造》を披露する。今回は、大山さんとの共演で得てきたものや、12月公演への意気込みについてお話をうかがった。
|大山平一郎と共演するという経験から得たもの
——大山平一郎さんとは、MD以外でもさまざまな共演の機会がおありですが、一緒に活動することを通して、石上さんの中で変化したと思うことはありますか?
石上 大山さんと出会った頃は、私が音大に行っていないということもあり、一緒に室内楽をやる仲間がいなかったのに何度も引き入れてもらって、リハーサルをどうしたらいいかとか、どんなところを聴いたり、気にしたりしながらやったらいいのか、ということを教えてもらったんです。それは室内楽だけじゃなくて、オーケストラやソロで弾くときにもすごく活きています。
——共演を通して演奏家としての基礎の部分から教えていただけたのですね。演奏技術について以外にも何かありますか?
以前は作曲された時代のことや、作曲家のこととかをそんなに深く考えてなかったんですが、大山さんに音楽語法、譜面の読み込み方、音楽の構築の仕方とか、たくさんのことを教わったので、そういうこともいろんな活動で活きています。大山さんが若い頃に共演されてきた音楽家は、私たちにとっては歴史上の人物みたいな人たちなんですよ。例えば、去年私たちが演奏したシェーンベルクの《浄夜》も、昔初演をした人と一緒に弾いたりとかもされているんです。
——本当ですか!?その場に居合わせたかった……。
だからテンポの話とかになると、すごい説得力があって。つい演奏しづらいと思ったら変えそうになってしまうところを、このテンポで書いたのにはちゃんと理由があるという話があるので、説得力もあるし。昔の巨匠たちはこういうふう弾いてたんだなとか、私達が知らない時代のエッセンスを教えてもらえています。
——まさに、生き証人ですね。作曲者の意志が反映された演奏が引き継がれていくのはとても重要なことだと思います。
一緒に弾いていると、やっぱり面白いし、楽しいですよ(笑)。現在ではMDとかシャネル(・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズ)とかいろんな室内楽を演奏する場に呼んでくださっています。
|ディスカバリー・シリーズ12月公演の曲目について
——石上さん自身も変化や成長を感じたとおっしゃっていた大山さんとの共演ですが、今回のブルックナーの弦楽五重奏は、既にたくさん共演されているのですね。
そうなんです。まず京都のカフェ・モンタージュというところで、2017年に2日間公演をやって。その後、大山さんとシャネルでもやってるんですよ。この曲をたくさん演奏しているうちに、すごく好きな曲になっていたので、自分が主催・企画している“Ensemble Amoibe アンサンブル・アモイべ”という室内楽のシリーズでも取り上げようと公演をしました。
——そこからの今回のディスカバリー・シリーズということですね。
だから相当弾いている中のほとんどが、大山さんと一緒ということになります。
——前回この作品をアンサンブル・アモイベで披露したのは2019年でした。この作品の演奏は約3年間あきましたが、これまでと今回で何か心持ちや演奏に関して変化した点はありますか?
去年の1月からオーケストラでゲストコンサートマスター業をするようになったんです。そのときに、ブルックナーの3番のシンフォニー(=交響曲)を演奏しました。第3稿を弾いたんですけど(※ブルックナーは自身の作品をしばしば改訂している)、その改訂時期っていうのがクインテット(=五重奏曲)の書かれた頃と被っているんですよね。曲の構想といい、流れといい、使っている和声感といい、転調の仕方といい、なんかすごい既視感があるなと思ったら、よく演奏していたブルックナーの五重奏曲だったんです。
——五重奏曲を演奏していたからこその発見ですね。
思わずリハーサルの後に大山さんに電話してしまいました(笑)。今回のディスカバリー・シリーズでは、シンフォニーの3番を既に弾いているので、シンフォニックな響きのイメージを活かしていけたらいいなって思います。ブルックナーってシンフォニーとか見ればわかるように、書き直しの人じゃないですか。彼以外の人の手が加わっていることもすごく多くて、その中でクインテットっていうのは自分で意思を持って書いてる曲だから良いと大山さんも言っていましたね。
——改訂についてはとても複雑ですよね……。鑑賞者たちの間では、ブルックナーは好き嫌いが比較的はっきりと分かれているイメージがあります。演奏者の視点ではどのようなところに注目して聴くとブルックナー作品が面白くなると思いますか?
石上 私がコンマスで3番のシンフォニーをやった時のブルックナーオタクの指揮者(坂入健司郎さん)が、「ある種日本の宗教観とも言える、神に向かって私たち(人間)が手を伸ばすのではなく、“神が降りてくる”という感覚を持って演奏しよう」って言ってて、それがすごく私の中でしっくりきたんです。私達にはない、ヨーロッパの宗教に対する感覚がブルックナー作品にはあり、面白いなと思います。
——ブルックナーが敬虔なカトリック信者だったことは有名ですよね。
そしてブルックナーはオルガンを弾いてた人なので、教会の中でバーってオルガンがなってて、それがパンって止んだ時の、魂が一瞬宙に浮くような感覚がブルックナー独特で。クインテットの第3楽章にもそういうところが出てきて、これはオルガンのイメージで書かれてるなっていうのを想像するのも面白いです。
——他の楽章でも何か面白いところはありますか?
第2楽章では、急にひょうきんな音楽が出てくるんですよ。シリアスな教会の響きとか神様の声みたいな感じのところがパッと止んだあとに、そういう道化的な音楽が急に出てきたりとか。長い音楽の中にもスパイスになる面白さみたいなものがあるので、それをパリパリっと演奏すると、多分ブルックナー苦手な人も「あれ、結構いいんじゃない?」って思ってくれるんじゃないかと思います!
——私自身ブルックナー作品は長大で苦手意識を持っていたので、音楽の変化に注目しながら聴いてみたいと思います!
――では次に、ミヨーの《世界の創造》についてお聞きしたいと思います。この作品はジャズから影響を受けたリズミカルで陽気さが、ブルックナーの作品とのコントラストになっていて、とても面白いと思いました。
ミヨーってすごく独特ですよね。聴いている曲の作品名と作曲家がわからへんみたいなときでも、聞いたときに「絶対ミヨーや!」ってわかるぐらい。和声感も独特だし、ジャズの要素も取り入れられていたり、クラシックでは考えられない、ある種禁じ手とまでは言わないけどそんな感じ。「そこの音ぶつけるんや!?」みたいな感じの素っ頓狂な音楽がすごく多い気がしています。
——たしかに、少し毒っ気のある明るさを持った作品が多いなと思います。
フランス六人組とかの「今日は空が青いなあ」みたいな感じに聞こえさせておいて、実は裏に何かあるみたいな、ちょっとしたアイロニカルさが能天気さの中に入れこまれている、そんな印象の作曲家ですね。
——ジャズからも影響を受けた作品ですが、サックスのしゃくりあげるような特殊奏法はヴァイオリンでも真似したり、音色作りを工夫したりするのですか?
まるっきし真似するわけではないですね。やっぱり楽器の特性とかこれが得意な楽器、これが不得意な楽器とかって結構あると思うので、全く同じようにすると、逆にダサくなることもあります。なので、オリジナルの奏法を参考にしつつ、ヴァイオリンでのやり方を模索するのがいいかなと思いますね。
|MDならではの「対話」から得られるもの
——やはり、MDといえば演奏を「する/聴く」だけではなく、「対話」がとても重要だと思います。これまで音楽家同士ではどのような対話が行われてきましたか?
大山さんにいろいろ習いつつ、演奏家同士は平等に思ったことを言うことができるリハーサル環境が整っているというのが、すごくありがたいです。私も、室内楽を自主企画でやってたりするんですけど、音楽的な内容だけでなくこういう環境も私の糧になっています。
——公開リハーサルで意見を交換しているところを見る機会はなかなか無いので、演奏者同士でお話をしているのを聞くだけでも、とても発見が多いです。観客との「対話」の方はいかがですか?
お客さんとのダイアログに関しては、私たち演奏家が思っているのとは違う方向からの疑問があるんだなということがわかりますね。やっぱり自分は演奏家としてのバイアスがかかっちゃってるので、「こんなことでいいんだろうか……」みたいなことでもお客さんは楽しみにしてくれてることが多いんだなっていうのがわかったりとかして。だから、MDだけでなく、客席にお話しながらコンサートするときとかに、こういう経験が活かされています。
——12月公演のダイアログもとても楽しみです。それでは、最後に今回のディスカバリーシリーズ公演に向けての意気込みをお願いします。
ミヨーの《世界の創造》は原曲が室内オーケストラで、ブルックナーは交響曲をよく書いてきたということのもあり、2つの作品にはオーケストラという共通しているところがあるのかなと。ブルックナーが2回延期になった間、私自身の状況が変わってオーケストラで弾くようになり、昔より管弦楽のサウンドをイメージしやすくなりました。そういう音の響きのイメージだとか、楽器のイメージとかを持って、新しい感覚で取り組めたらいいなと思っています。私が最後にミュージック・ダイアログで演奏したのは、2019年の9月でしたから、そこから3年間の間の成長を楽しみにして来ていただけたら嬉しいですね。
聞き手&構成:山下実紗(Music Dialogueライティング・インターンプロジェクト)
お申し込みはこちらから
Music Dialogue ディスカバリーシリーズ 2022-2023 12月公演 in東京 – パスマーケット (yahoo.co.jp)
○字幕実況解説付き公開リハーサル
【日時】12月20日(火) 19:00開始 (18:30開場)
【会場】中目黒GTプラザホール (中目黒駅南口よりすぐ)
【料金】一般 2,000円、学生 500円 (自由席)
○本公演
【日時】12月23日(金)19:00開演 (18:30開場)
【会場】加賀町ホール
【料金】一般 4,000円、学生 2,000円 (自由席)
【曲目】
ミヨー:世界の創造(ピアノ五重奏版)
ブルックナー:弦楽五重奏曲 ヘ長調
【出演】
吉見友貴(Pf.)、石上真由子(Vn.)、北川千紗(Vn.)、田原綾子(Vla.)、
大山平一郎(Vla.)、金子鈴太郎(Vc.)
※プログラムや出演者は都合により変更になる場合があります。
※お客様のご都合による申し込み後のキャンセル及び返金はお受けできません。予めご了承ください。 全てお座席は自由席となっております。