コラム

【ディスカバリー・シリーズ 7月公演 演目について②】

2022.06.22

実力ある演奏家たちが室内楽の魅力を追求するディスカバリーシリーズ。
2022年夏は7/1にメンデルスゾーンとドビュッシーの作品がとりあげられます。
両演目について、その魅力を解き明かすべく定期的にMDプロジェクトチームからお届けしております。
本日は、メンデルスゾーンについて、第二弾を公開させていただきます。

メンデルスゾーンの師シルマーの教え子のひとりには、スイス出身の画家アルノルト・ベックリン(1827-1901)がいました。ベックリンの代表作『死の島』が醸し出す「死」の世界は、この絵画の黒白の複製を目にしたラフマニノフに感銘を与え、同名の交響詩を作曲させたことでも知られています。(参考資料:画像①)


ここまで、メンデルスゾーン周辺の画家や同時代人による絵画を見てきました。そのなかでは、風景の鮮やかな描写だけでなく、自然の躍動や自然に対する畏怖、そして内省的な「死」の世界までもが描かれています。こうした美術の表現全てをメンデルスゾーンの絵画に読み取ることはむずかしいでしょう。

しかし、メンデルスゾーンが残した音楽ではどうでしょう。風景や情景を音楽で描写することに長けたこの作曲家による《フィンガルの洞窟》や楽譜を載せた《静かな海と楽しい航海》は、ターナーの風景画とおなじく、単なる風景の再現を超え、恐怖や歓喜といった感情をも放っています。(参考資料:画像②)

実際の光景や体験に基づく描写的な音楽は必ずしも絵画と関係がないとは言い切れないのではないでしょうか。なにか共通したものを感じずにはいられないのです。しかし今回演奏するのは、こうした荘厳な、さまざまな描写に長けたオーケストラ作品ではなく、室内楽作品なのです。

戸外で風景と対峙し描写する画家メンデルスゾーンにとって、室内のアトリエで白いキャンバスに描きつける「弦楽五重奏曲」とは、いったいどのような音楽なのでしょうか。公開リハーサルでは、完成した解釈だけでなく、その制作過程までをも、窺い知ることができるでしょう。

(参考資料)
アルノルト・ベックリン《死の島》、1883年、旧国立美術館、ベルリン美術館


facebook twitter LINE